伊野波節:歌詞
逢はぬ夜のつらさ よそに思なちやめ
恨めても忍ぶ 恋の習ひや
訳
逢えない夜は辛いこと、あなたは他の女性に心を移したのでしょうか。
恨めしく思いながらも、あなたのもとへ忍んでいくのは恋する者の性です。
恩納節:歌詞
恩納松下に 禁止の牌の立ちゆす
恋忍ぶまでの 禁止や無さめ
七重八重立てる 籬内の花も
匂移すまでの 禁止や無さめ
訳
恩納番所に立っている松の木の下に注意書きの立て札が建てられているが、
恋をすることまで禁止しているのではあるまいか。
幾重にはりめぐらした籬の内の花も、
(誰にも)匂いを止めることはできません。
籬
- 竹、柴を編んでつくった垣。
※当時使用されていた籬に関する写真資料が見つからないため、イメージ画像として掲載しています。
長恩納節:歌詞
逢はぬ徒らに 戻る道すがら
恩納岳見れば 白雲のかかる
恋しさやつめて 見欲しやばかり
訳
逢うこともできず空しく戻る道の途中、
恩納岳を見ると白い雲がかかっており、
恋しさが増して一目会いたい思いはつのるばかりです。
恩納岳
- 国頭郡恩納村瀬良垣と国頭郡金武町伊芸に境界をなす標高363メートルの山。
演目:解説
あらまし
「伊野波節」は女踊りの技法が集約されている演目で「諸屯」と並び最高峰の琉球舞踊と称されています。
前半は花笠を手に持って胸中の思いを燃焼させ、後半では花笠を深々とかぶり愛しい人を慕う余情を残しながら踊りを納めます。
揺れ動く女性の情愛を大輪の花笠に託していることから「花笠踊り」、「女笠踊り」と呼ばれています。
演目の呼び名
みどころ
演目は「伊野波節」、「恩納節」、「長恩納節」の三曲で構成されます。
第一曲目「伊野波節」にあわせて《角切り※1》で歩み、舞台中央で基本立ちになると、”逢はぬ夜のつらさ”の歌い出しで花笠を胸元にひきつけ深い《思い入れ》をおこないます。
”よそに思なちやめ”の一節で上手前方向に小走りに移動して恋に身を焼く女心の揺れをあらわし、《よそにの手》と《ちゃーみの手》の技法を重ねて花笠を大きく振りかざし情念を燃やす一連の所作は他の古典舞踊にはない表現方法です。
”ハイヤーマーター”の囃子では身体を打ち下ろして、悲哀を視覚的に訴えていきます。
「伊野波節」が女心の切実な情感を綴っていくのに対して、第二曲目「恩納節」は花笠をかぶり軽やかなテンポにあわせた歩みを中心に描いていきます。
”匂移すまでの”の一節では両手で袖をすくい上げたまま振り向く《袖取り》の技法をもって、目に見えない匂いを写実的に表現していきます。
第三曲目「長恩納節」は、”白雲のかかる”の一節で《白雲手》の技法をおこなうと同時に、地謡と踊り手が尺をはずさないように間を合わせる工夫が必要となります。
”恋しさや詰めて”の一節では《あご当て》の技法をもって、悲恋の切なさと燃える情念を美しい手踊りをもってあらわし余情を残して演目を締めくくります。
《技法》については、まとめて「補足」欄に追記しました。
※流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。
《角切り※1》
踊り手が舞台を斜めに、下手奥から上手前へ向かって対角線上に歩み出ること。
出羽/中踊り/入羽
出羽は踊り手が登場する出の踊りです。
中踊りは舞台中央奥で立ち直りをしたあとの本踊りを指し、入羽は舞台下手奥に戻っていく納めの踊りのことを指します。
琉球古典舞踊の基本構成は、この三部のつながりで構成されています。
補足
「伊野波節」の特殊技法
各技法の説明
- 《思い入れ》
心に深く思いをそそぎこむ所作。 - 《あご当て》
首を傾け、顎に手をあてる技法。
- 《白雲手》
両手を斜め上にあげ指関節と手首をつかって波うたせる手踊りのこと。(※流派によって違いがあり)
- 《月見手》
親指と人差し指の先を触れあわせ、目の形をつくり額ひたいの斜め前にかざす技法。 - 《袖取り》
袖を両手ですくあいげる技法。 - 《よそにの手》、《ちゃーみの手》
肩先から笠を大きく振りかざす所作。 - 《しのびの手》
半身になり袖をつかんで前方に顔を隠しながら歩む所作。
- 《ガマク》
腰骨の上のくびれた脇腹に呼吸を入れ、腰と上体をしっかりと固定する身体技法。
※息を吸いながら腰の移動をおこない、息を吐きながらその腰に上体を納める呼吸作用。
古典音楽
古典音楽のカテゴリーでは、「伊野波節」、「恩納節」、「長恩納節」の曲目について解説しています。
「伊野波節」- 古典音楽
工工四 印刷・保存 【工工四について】 歌詞 伊野波の石こびれにゅふぁぬいしくびり 無蔵つれてのぼるんぞぅつぃりてぃぬぶる にやへも石こびれにゃふぃんいしくびり 遠さはあら ...
続きを見る
「恩納節」- 古典音楽
工工四 印刷・保存 【工工四について】 歌詞 恩納松下にうんなまつぃしたに 禁止の碑のたちゆすちじぬふぇぬたちゅすぃ 恋忍ぶ迄のくいしぬぶまでぃぬ 禁止やないさめちじやねさ ...
続きを見る
「長恩納節」- 古典音楽
工工四 印刷・保存 【工工四について】 歌詞 逢はぬ徒らにあわんいたぢらに 戻る道すがらむどぅるみちすぃがら 恩納岳見ればうんなだきみりば 白雲のかかるしらくむぬかかる 恋 ...
続きを見る
参考文献一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において参考にさせて頂いた全ての文献をご紹介します。 尚、引用した文章、一部特有の歴史的見解に関しては各解説ページの文末に該 ...
続きを見る