仲間節(第一曲目):歌詞
思事の有ても 与所に語られめ
面影と連れて 忍で拝ま
訳
心にお慕いすることがあっても、他人に語ることができましょうか。
面影を連れて、忍んでお逢いしたい。
諸屯節(第二曲目):歌詞
枕ならべたる 夢のつれなさよ
月やいりさがて 冬の夜半
訳
一緒に枕を並べて寝ている夢から覚めた後のつれなさよ。
月は西に入りかけ、冬の夜半のわびしいことです。
「諸屯節」の由来
現在の奄美諸島の加計呂麻島で伝承されてきた「諸鈍長浜節」から派生し、受け継がれてきたものといわれていますではないかという一説があります。
『琉歌百控』に収録されている「諸鈍節」には、”東間切之内潮殿村”と付記されており、現在の加計呂麻島の字諸鈍(鹿児島県大島郡瀬戸内町大字諸鈍)ではないかという一説があります。(参照:『奄美民謡「諸屯長浜節」の系譜』)
しやうんがない節(第三曲目):歌詞
別て面影の 立たば伽召しやうれ
馴れし匂袖に 移ちあもの
訳
別れた後に、わたしの面影が立つのならば、この着物をそばに置いてください。
馴れ親しんだ匂いは着物の袖に移してありますから。
「諸屯」:解説
あらまし
「諸屯」は古典舞踊女踊りのなかで最も内面的描写を必要とし、小道具を使わずに手踊りのみで思いを燃焼させていく、演技力が要求される最高峰の舞踊と称されています。
女性の満たされぬ心、寂寥感を極力抑えた動きと手踊りであらわし、目の特殊技法をもちいて演じるところにこの演目の難しさがあります。
みどころ
演目は、「仲間節」、「諸屯節」、「しゃうんがない節」の三曲で構成されます。
第一曲目(出羽)「仲間節」の前奏にあわせて《角切り※1》で歩み、”思事の有ても”歌い出しで《ガマク※2》を使って《思い入れ※3》をして、両足の動きを中心に思深い女心を胸中に込めて歩みによる所作で表現していきます。
第二曲目(中踊り)「諸屯節」の”枕ならべたる”の歌い出しで、《三角目付》の特殊技法をもちいて身体を静止させたまま視線を三方に配り、うつうつと夢からさめていく姿をあらわしていきます。
やがて夢うつつままに動き出し、《枕手》の技法で一緒に枕を並べて寝ている様子を心の内に映し重ねて写実的に表現し、つづく”夢のつれなさよ”の一節では、《あごあて》をとりながら静かに歩み出し、両手の指を組む《指組》でしめ、現実に立ち尽くす心の侘しさを描いていきます。
”月やいりさがて”の一節では、《月見手》で取り払えぬ寂寥感をあらわし、続く”冬の夜半”の後の囃子で、《抱き手》の技法をとって愛しい人への思いを心に抱き、一連の手踊りを見事につないで二曲目を完結させます。
第三曲目(入羽)「しやうんがない節」は、満たされぬ思いを抱えながらも愛する人に対する心づかいや情の深さをあらわし、”馴れし匂袖に 移ちあもの”の一節で、別れた後も袖に移り香を残す女性の慕情と内向する渇愛を両手を広げて袖をすくう《袖取り》をとって踊りを納めます。
※ページ下位の「補足」欄に「各技法」について追記しました。
《角切り※1》
踊り手が舞台を斜めに、下手奥から上手手前へ向かって対角線上に歩み出ること。
《ガマク※2》
腰骨の上のくびれた脇腹に呼吸を入れ腰と上体をしっかりと固定する身体技法。
《思い入れ※3》
心に深く思いをそそぎこむ所作。
出羽/中踊り/入羽
出羽は踊り手が登場する出の踊り。中踊りは舞台中央奥で立ち直りをしたあとの本踊りを指し、入羽は舞台下手奥に戻っていく納めの踊りのことを指します。
※流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。
補足
「諸屯」で使われる主な技法
各技法の説明
・《三角目付》
体を静止したまま、視線を三方(上→下→左上→右上)に移す特殊技法。夢から覚める瞬間のうつろな状況を表現しています。
・《枕手》
手のひらを頭の後ろにあて、もう片方の手を前に出してこねる技法。枕を並べて寝ている様子に自身の心象を映し重ね、写実的に描いていきます。
・《あごあて》
首を傾け、顎に手をあてる技法。心の内にある情感をにじみ出しながら表現していきます。
・《指組》
両手の指を重ね合わせて組む技法。余情を残しながら区切りをいれます。
・《月見手》
親指と人差し指の先を触れあわせ、目の形をつくり額ひたいの斜め前にかざす技法。月見をしている様子に自身の心象を映し重ねて表現していきます。
・《抱き手》
両手を広げて包み込み、赤子を抱いているような動きをとる技法。切なる思いを一段と込め表現していきます。
・《袖取り》
袖を両手ですくあいげる技法。袖に関する内容に自身の心象を映し重ねて表現していきます。
琉球舞踊の先人たちの教えに、「踊りはできるだけ手数を省くこと」とあるように、余計な動作をできるだけ省略し、思いの燃焼度合いを表現してこそ美の極致といえます。
それ故に、女踊りは”抑制の美”、”凝縮の美”ともいわれています。
編集後記
芸術と科学
この地球を織りなすあらゆる大自然の摂理は、実にシンプルで美しい数式をもって紐解くことができると言われています。
そういった意味では、芸術と科学は似ているのかもしれません。
感じることはできるが、言葉では語れない次元を、人は芸術や科学に託しているのでしょうか。
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参考文献:一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において、参考にした全ての文献をご紹介します。 1.『定本 琉球国由来記』 著者:外間 守善、波 ...
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