古典舞踊

「諸屯」 - 古典舞踊/女踊り

仲間節:歌詞

 

思事の有てもうむくとぅぬあてぃん 与所に語られめゆすにかたらりみ

面影と連れてうむかぢとぅつぃりてぃ 忍で拝ましぬでぃおぅがま

 

心におしたすることがあっても他人に語ることができましょうか。

あなたの面影を連れて、忍んで行ってお顔を拝みたい。

 

しよどん節:歌詞

 

枕ならべたるまくらならびたる 夢のつれなさよゆみぬつぃりなさゆ

月やいりさがてつぃちやいりさがてぃ 冬の夜半ふゆのやふぁん

 

枕を並べ情を交わした夢から覚めたときのつれないことよ。

すっかり月は西に入りかけ、冬の夜半のわびしさがつのる。

 

しやうんがない節:歌詞

 

別て面影のわかてぃうむかぢぬ 立たば伽召しやうれたたばとぅぢみしょう

馴れし匂袖になりしにおぃすでぃに 移ちあものうつぃちあむぬ

 

別れた後、わたしの面影が立つのならば、これを慰めにしてください。

馴れ親しんだ匂いは着物のそでに移してありますから。

 

琉球古典舞踊 女踊り「諸屯」のイラスト

琉球古典舞踊 女踊り「諸屯」

 

演目:解説

 

あらまし

諸屯しゅどぅん」は「伊野波節ぬふぁぶし」と並び、古典舞踊の中で最も演技力が要求される最高峰の演目としょうされています。

満たされぬ女の情愛じょうあいを極力おさえた所作であらわし、手や目の特殊技法をもって愛する人への内なる思いを燃焼させて演じていきます。

先師先人の教えに「踊りはできるだけ手数を省くこと」とあり、余計な動作を省略して思いの燃焼度合いを表現してこそ美の極致といえます。

 

冬の夜半のイメージ(三日月)

冬の夜半(イメージ)

 

みどころ

演目は「仲間節なかまぶし」、「しよどん節しゅどぅんぶし」、「しやうんがない節しょんがねーぶし」の三曲で構成されます。

第一曲目「仲間節なかまぶし」の前奏にあわせて《角切すみきり※1》で歩み、”思事の有てもうむくとぅぬあてぃん”歌い出しで《ガマク》を使って《思い入れ》をおこない、両足の動きを中心に心寂しい胸中きょうちゅうを歩みによる所作しょさで表現していきます。

第二曲目「しよどん節しゅどぅんぶし」の”枕ならべたるまくらならびたる”の歌い出しでは、《三角目付さんかくみぢち》の特殊技法をもちいて身体を静止させたまま視線を三方に配り、うつうつと夢からさめていく姿を表現していきます。

やがて夢うつつままに動き出し、《枕手まくらでぃ》の技法で一緒に枕を並べて情を交わしている様子を写実的に表現し、続く”夢のつれなさよゆみぬつぃりなさゆ”の一節では《あごて》をとりながら静かに歩み出し、両手の指を組む《指組》で締めて、現実に立ち尽くす心のわびしさを描いていきます。

月やいりさがてつぃちやいりさがてぃ”の一節では《月見手ちぢみでぃ》で取り払えぬ寂寥感せきりょうかんをあらわし、続く”冬の夜半ふゆのやふぁん”の後の囃子で《抱き手だちでぃ》の技法をとって愛しい人への思いを燃焼させて一連の手踊りを見事につなぎ二曲目を完結させます。

第三曲目「しやうんがない節しょんがねーぶし」は、満たされぬ思いを抱えながらも愛する人に対する心づかいや情の深さをあらわし、”馴れし匂袖になりしにおぃすでぃに 移ちあものうつぃちあむぬ”の一節で別れた後も袖に移り香を残す女性の慕情ぼじょうと内向する渇愛かつあいを《袖取そでとり》で表現して踊りを納めます。

《技法》については、まとめて「補足」欄に追記しました。

 

流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。

 

角切すみきり※1》

踊り手が舞台を斜めに、下手奥しもておくから上手前かみてまえへ向かって対角線上に歩み出ること。

 

出羽んじふぁ中踊りなかうどぅい入羽いりふぁ

出羽んじふぁは踊り手が登場する出の踊りです。

中踊りなかうどぅいは舞台中央奥で立ち直りをしたあとの本踊りを指し、入羽いりふぁは舞台下手奥しもておくに戻っていく納めの踊りのことを指します。

琉球古典舞踊の基本構成は、この三部のつながりで構成されています。

 

舞台図

舞台図

 

補足

 

諸屯しゅどぅん」の特殊技法

 

各技法の説明

  • 《ガマク》
    腰骨の上のくびれた脇腹に呼吸を入れ、腰と上体をしっかりと固定する身体技法。
    ※息を吸いながら腰の移動をおこない、息を吐きながらその腰に上体を納める呼吸作用。
  • 《思い入れ》
    心に深く思いをそそぎこむ所作。
  • 三角目付さんかくみぢち
    体を静止したまま、視線を三方(上→下→左上→右上)に移す特殊技法。
  • 枕手まくらでぃ
    手のひらを頭の後ろにあて、もう片方の手を前に出してこねる技法。
  • 《あごて》
    首を傾け、顎に手をあてる技法。
  • 《指組》
    両手の指を重ね合わせて組む技法。
  • 月見手ちぢみでぃ
    親指と人差し指の先を触れあわせ、目の形をつくり額ひたいの斜め前にかざす技法。
  • 抱き手だちでぃ
    両手を広げて包み込み、赤子を抱いているような動きをとる技法。
  • 袖取そでとり》
    袖を両手ですくあいげる技法。

 

古典音楽

古典音楽のカテゴリーでは、「仲間節なかまぶし」、「しよどん節しゅどぅんぶし」、「しやうんがない節しょんがねーぶし」の曲目について解説しています。

 

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「仲間節」- 古典音楽

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参考文献(沖縄の本)のイメージ画像
参考文献一覧

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