舞踊

「本嘉手久」 - 古典舞踊/女踊り

2020年2月11日

本嘉手久節むとぅかでぃくぶし(第一曲目):歌詞(野村流)

 

深山鶯のみやまうぐいすぃぬ 節や忘りらぬしつぃやわすぃりらん

梅の匂忍でんみぬにをぃしぬでぃ ほけるしゆらさふきるしゅらさ

 

深山のうぐいすが季節を忘れずに

梅の匂いを忍んでさえづる声の美しいことよ。

 

本嘉手久節むとぅかでぃくぶし(第一曲目):歌詞(安富祖流)

 

深山鶯のみやまうぐいしぬ 節や知らねどもしちやしらにども

梅の匂しちどんみぬにをぃいしちどぅ 春や知ゆるはるやしゆる

 

深山のうぐいすは季節を知るよしもないが、

梅の匂いで、春を知ることができる。

 

流派による違い

琉球古典音楽の流派には、安富祖流あふそりゅう野村流のむらりゅう湛水流たんすいりゅうの三つがあります。

各流派によって、奏法や歌唱法、歌詞などの伝承方法に違いがあり、本項の「本嘉手久節むとぅかでぃくぶし」は、安富祖流あふそりゅう野村流のむらりゅうの二つの歌詞を掲載しています。

 

出砂節いでいしなぶし(第二曲目):歌詞

 

笠に散りとまるかさにちりとぅまる 春の花ごころはるぬはなぐくる

袖に思とまれすでぃにうみとぅまり 里が御肝さとぅがうぢむ

 

笠に散りとまる春の花のように、

わたしの袖にとまってほしいものです、愛しい人のお心よ。

 

揚高祢久節あぎたかにくぶし(第三曲目):歌詞

 

春にうかされてはるにうかさりてぃ 花のもと忍ではなぬむとぅしぬでぃ

袖に匂うつちすでぃににをぃうつち 戻るうれしやむどぅるうりしゃ

 

春に浮かされて、花のもとに忍んでいき

袖に匂いをうつして戻ることのうれしさよ。

 

しのんで

直訳としては、”他に知られないように 、気持ちを抑えて”といった意味になります。

 

梅にうぐいす

「梅にうぐいす」という故事ことわざがあります。

意味は、”よく似合って調和の合うもの、仲の良い間柄”のたとえをあらわします。

梅は他の花にさきがけて春を告げ、うぐいすは「ホ~ホケキョ」と美しく透き通った鳴き声で春の訪れを知らせてくれます。

 

梅の画像

梅の花 - 画像提供:写真AC

鶯の画像

鶯 - 画像提供:写真AC

 

本嘉手久の舞踊写真

- 琉球古典舞踊 女踊り「本嘉手久」 -

 

本嘉手久むとぅかでぃく」:演目解説

 

あらまし

春の訪れを舞台に花笠と手にもつ杖串ちーぐし(※1)の小道具を使い、若い女性の恋ごころをあらわしていく演目になります。

昔は、歌の全容から「花見踊り」、または手にもつ花笠になぞらえ「笠踊り」とも呼ばれていました。

演目全体を通して扱う花笠は「伊野波節ぬふぁぶし」とは逆に、前半に花笠をかぶり、後半から手にもつ構成で演じられます。

春を告げる梅の花とうぐいすの姿をでながら、恋情を映し重ねて表現するところにこの演目のおもむきがあります。

 

杖串ちーぐし(※1)

杖を象徴し、演目の用途によって使い分けができるように短い竹(約60cm)で作られた小道具です。

琉球舞踊や組踊で演じられる道行の場、かたな表象ひょうしょうする所作に用いられます。

 

みどころ

演目は、「本嘉手久節むとぅかでぃくぶし」、「出砂節いでぃすぃなぶし」、「揚高祢久節あぎたかにくぶし」の三段構成(出羽んじふぁ中踊りなかうどぅい入羽いりふぁ)で演じられ、各曲のつなぎで徐々に高まりをみせる曲想きょくそうへと変化していきます。

第一曲目(出羽んじふぁ)の「本嘉手久節むとぅかでぃくぶし」では、花笠をかぶり手に杖串ちーぐしを持って踊り手が《角切りすみきり※2》で道行の形をとります。

梅の匂しちどんみぬにをぃいしちどぅ”の一節で、手にもつ杖串ちーぐしの先端部を肩に添え、香り立つ春の訪れをあらわしていきます。

その後、舞台中央奥で後ろ向きに座って、かぶっている花笠をはずし中踊りにつなぎます。

第二曲目(中踊りなかうどぅい)の「出砂節いでぃすぃなぶし」では、手に持つ花笠を美しくあつかいながら春の華やかさを描いていきます。

袖に思とまれすでぃにうみとぅまり”の一節で、《袖とり※3》の技法をとって女性の恋ごころをあらわし、”里が御肝さとぅがうぢむ”の一節では、花笠を胸に当て一段と恋慕うこいしたう思いを燃焼させていきます。

第三曲目(入羽いりふぁ)の「揚高祢久節あぎたかにくぶし」は、高揚こうようのある曲想きょくそうにあわせて浮き立つ気持ちを表現していき、”戻るうれしやむどぅるうりしゃ”の一節で、花の匂いに恋情れんじょうを写し重ね、余韻よいんを残しながら踊りを納めます。

 

角切りすみきり※2》

踊り手が舞台を斜めに、下手奥から上手手前へ向かって対角線上に歩み出ること。

 

《袖とり※3》

袖を両手ですくあいげる技法。

 

出羽んじふぁ中踊りなかうどぅい入羽いりふぁ

出羽んじふぁは踊り手が登場する出の踊り。中踊りなかうどぅいは舞台中央奥で立ち直りをしたあとの本踊りを指し、入羽いりふぁは舞台下手奥しもておくに戻っていく納めの踊りのことを指します。

琉球古典舞踊の基本構成は、この三部のつながりで成り立っています。

流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。

 

補足

 

本嘉手久むとぅかでぃく」の由来

演目名の「本嘉手久むとぅかでぃく」の由来については、「本貫花むとぅぬちばな」や「本花風むとぅはなふー」と同じように「むとぅ」=”元祖、本来”の意味合いをとり、沖縄民謡の「嘉手久」などと区別するために名付けられたものといわれています。(他にも諸説あり)

また、ベースとなる楽曲に関しては、奄美大島の嘉徳村に伝承されている「早嘉手久節」との関連性が有力なのではないかといわれています。

 


 

参考文献(本)のイメージ画像
参考文献:一覧

書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において、参考にした全ての文献をご紹介します。     1.『定本 琉球国由来記』 著者:外間 守善、波 ...

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マブイ

ニライカナイから遊びにやってきた精霊。
伝統芸能の継承と発展を見守りつづけています。

好きな食べ物:苔
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