工工四
歌詞
みすとめて起きて 庭向かて見れば
綾蝶無蔵が あの花この花 吸ゆるねたさ
訳
早朝に起きて庭に向かって目をやると、
美しい蝶があの花この花と(蜜を)吸っているさまが妬ましい。
みすとめて
- 未明に
- 早朝に
綾蝶
- 綾 = 美しい(蝶)
無蔵
- 本来、”想いを寄せる女性”を示す語句であるが本曲では蝶を形容して用いている。
ねたさ
- 妬さ = 妬ましい
- 羨む
解説
「昔蝶節」の創作背景は現在も明らかになっていませんが、歌詞にある”綾蝶無蔵が”の一節では擬人法を用いて蝶の姿を女性に見立てて表現していることから、自然の景観に人間ドラマを映し重ねて詠み込まれた歌曲であると考えられます。
琉歌は通常、上句が〔八・八]、下句が〔八・六]の計三十音の定律で構成されますが、「昔蝶節」は”あの花この花”の一節を加えた連歌形式で詠われています。
また、演奏の歌持(出だし)から落ち着きのある曲想で進行しますが、処々に曲調の変化があらわれ、特に”あの花この花”の一節は難しい歌唱ポイントとして挙げられます。
補足
逸話
琉球王国の音楽家である屋嘉比朝寄の兄がお座敷で「昔蝶節」を演奏している最中、庭先に目をやると立派に咲いている花にすがろうとしている一匹の蝶を発見します。
蝶が触れるたび、花が大きく揺れて今にも落ちそうなので、演奏中も気が気でなく思わず歌い方までも揺らしてしまったそうです。
そこに一人の老妓が座敷を通りかかり、今ほど歌っていた「昔蝶節」に感銘を受けたので、もう一度お聞かせくださいと訪ねてきました。
再び「昔蝶節」を歌って聞かせましたが、老妓はあてがはずれた顔をして、その歌い方ではなく先ほどの歌い方でお願いしますと言います。
状況を振り返りながら今にも落ちそうな花に動揺して歌が変化してしまったことを説明すると、老妓は先ほどの節になされたほうが節情に叶うと言い残していきます。
その後、老妓とのやり取りを弟の屋嘉比朝寄に話をすると、確かにこれは節情に叶った奏法であると賛同します。
こうして、はからずも演奏された節が今日に伝わる「昔蝶節」になった言い伝えが残されています。《参考:『嗣周・歌まくら』那覇出版社》
略歴
■屋嘉比朝寄(1716-1775)
沖縄県那覇市首里桃原町に生まれる。
照喜名聞覚に師事。
独自の演奏法や唱法を確立し「当流」を創設。
現存する最古の三線楽譜を考案し、117曲を集録した屋嘉比工工四を完成させる。
大和芸能の素養があり、創作した主な作品にはその流れをくむ「上り口説」がある。
後世の琉球音楽の発展と伝承に多大な貢献を残した。
大昔節
「昔蝶節」は古典音楽の大昔節(※1)の分類に属し、「あがさ節」のチラシ(※2)につないでいきます。
「あがさ節」- 古典音楽
工工四 印刷・保存 【工工四について】 歌詞 深山蜘蛛だいんすみやまくぶでんすぃ かせかけておきゑりかしかきてぃうちぇゐ わをいなごになとてわをぃなぐなとぅてぃ 油断しやべ ...
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大昔節(※1)
ちらし(※2)
つないで演奏する終結部の楽曲。
楽曲の熱を徐々に散らしながらおさまりをもたせる構成をとります。
御供ともいいます。
参考文献一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において参考にさせて頂いた全ての文献をご紹介します。 尚、引用した文章、一部特有の歴史的見解に関しては各解説ページの文末に該 ...
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