渡りざう、 瀧落し:器楽曲
歌唱を伴わない楽器のみで演奏される器楽曲。(インストゥルメンタル)
辺野喜節:歌詞
波の声も止まれ 風の声も止まれ
唐土按司加那志 拝ですでら
訳
波の音も止まれ(静まれ)、風の音も止まれ(静まれ)、
中国の王族方(冊封使)が、お目見えするのだから。
唐土
唐土とは中国を指し、冊封使がおこなわれていた年表を辿ると明王朝と清王朝の時代を示します。
按司加那志
按司加那志の按司は王族を意味し、加那志は「~様」といった敬称に用いられます。
冊封使
琉球国王の即位式の際に、明、清王朝(現在の中国)の詔勅を授けるために派遣された使節団のことを指し、下記の図のように二隻の封舟(御冠船)で来航した記録が残されています。

封舟到港図(中山傳信録)※見開きページ接合改変 - 提供:人文学オープンデータ共同利用センター
浮島節:歌詞
遊びぼしやあても まどに遊ばれめ
首里天加那志 お祝やこと
訳
歌、三線、踊りを楽しみたくとも、日頃は宴をすることも無い、
(今日は)首里国王の御祝いであるから宴をするのである。
遊び
歌、三線、踊りなどを楽しむ宴の場を指します。
※ページ下位の「補足」欄に「遊び」について追記しました。
「若衆麾」:演目解説
あらまし
琉球国王の王位継承を祝して元服(※1)前の若衆が太平の世を寿ぎ、末々の希望や大成の願いを込めて演じられる祝儀舞踊です。
両手に持つ麾は、合戦時に武将が指揮を執るために使われた道具を指し、この戦の象徴となる道具の定義を逆説的に用いて、争いのない平安な世を願い託したところにこの演目の深い趣があります。
八重山諸島に伝わる芸能においては、麾は災厄を払う効果があるとされ、儀礼の場を清めるものとして扱われてきました。
1838年におこなわれた「戌の御冠船」では、二本の「麾」表裏の計4色(赤・白・青・練(薄黄))で踊られていた記録『校註 琉球戯曲集』(参考文献:一覧)が残っています。
元服(※1)
琉球王国時代におこなわれていた数え歳15歳を祝う成人の儀式。
みどころ
演目は、器楽曲の「渡りざう」と「瀧落し」、「辺野喜節」、「浮島節」の四曲構成で演じられます。
器楽曲「渡りざう」の演奏で登場して舞台中央で基本立ちになると、つづく「瀧落し」より若衆の中性的な初々しさをもって一連の手踊りと足運びに抑揚をつけて踊っていきます。
器楽曲の演奏終了と共に、背中に差した二本の麾を両手に持って、次の曲目につないでいきます。
「辺野喜節」では、厳かな曲想にあわせて両手に持つ麾を悠然と打ち振り、”唐土按司加那志 拝ですでら”の一節にあるように、冊封使を歓待するおもてなしの心をもって演じていきます。
「浮島節」は、琉球国王の即位をお祝いするおめでたい歌詞の内容に、二本の麾をつり合いよく四方にあつかいながら太平の世を寿ぎ踊りを納めていきます。
※流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。
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「麾(ぜい)」 - 古典舞踊/二才踊り
渡りざうわたりぞう、 瀧落したちをぅとぅし:器楽曲 歌唱を伴わない楽器のみで演奏される器楽曲きがくきょく。(インストゥルメンタル) 揚作田節あぎつぃくてんぶし:歌詞 &nb ...
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補足
「毛遊び」
かつて沖縄では、歌、三線、踊りなどを楽しむ宴の場が各地に存在していました。
それらは毛遊びと呼ばれ、民謡や楽器の演奏技術、舞踊、民話などの文化伝承の場として交流をおこない、また、結婚適齢期の男女の出会いの場としての機能も果たしていました。
その後、琉球王府が風紀の乱れを懸念して、毛遊びを厳しく規制したことにより時代と共に衰退していきました。
歌人である恩納なべが当時の様子を詠った琉歌は多くの人に親しまれ、現代でも古典音楽として大切に受け継がれています。
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「恩納節」- 古典音楽
恩納節うんなぶし:工工四 画像クリック→保存印刷できます。 歌詞 恩納松下にうんなまつぃしたに 禁止の碑のたちゆすちじぬふぇぬたちゅすぃ 恋忍ぶ迄のくいしぬぶ ...
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国王の巡業を迎える際に詠んだ下記の琉歌は、この演目の「辺野喜節」と「浮島節」の歌詞に紐づいており、当時の時代背景を読み取ることができます。
琉歌:
波の声もとまれ 風の声もとまれ
首里天がなし 美御機拝ま
訳:
波の音も静まれ、風の音も静になれ
今、私が首里の王様のごきげんを伺いますから
※略歴
■恩納なべ(18世紀頃)
確証性のある文献はないが現在の沖縄県国頭郡恩納村に生まれ、尚敬王の時代(1713~1751年)に活躍した女流歌人という言い伝えがある。
自然の情景、恋情を情熱的に詠む作風で、代表する作品には琉球古典音楽「恩納節」の琉歌がある。
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参考文献:一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において、参考にした全ての文献をご紹介します。 1.『定本 琉球国由来記』 著者:外間 守善、波 ...
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