四季口説:歌詞
1.
さても目出度や 新玉の 春は心も 若がえて 四方の山辺の 花盛り
囃子(長閑なる代の 春を告げ来る 深山鶯)
2.
夏は岩間を 伝え来て 瀧つふもとに 立ち寄れば 暑さ忘れて 面白や
囃子(風も涼しく 袖に通ひて 夏もよそなる 山の下かげ)
3.
秋は尾花が 打ち招く 園のまがきに 咲く菊の 花の色々 珍らしや
囃子(錦さらさと 思ふばかりに 秋の野原を 千草色めく)
4.
冬は霰の 音添えて 軒端の梅の 初花の 色香も深く 愛であかぬ
囃子(花か雪かと いかで見わけん 雪の降る枝に 咲くやこの花)
訳
1.
おめでたい新年の春は心も若返るように、そこかしこの山辺に花が咲き誇る季節である。
囃子(平穏な世の春を告げに来る深山の鶯。)
2.
夏は岩間を辿って滝の流れる麓に立ち寄ると、(そこには)暑さも忘れる趣がある。
囃子(風も涼しく袖に通れば、夏の暑さも気にならない山の岩陰。)
3.
秋はススキが打ち招き、庭の籬に咲く菊の花は色とりどりで素晴らしい。
囃子(錦更紗と思うほどに、秋の野原を色々な草が彩る。)
4.
冬は霰の音がして、軒端の梅の初花の色と香りも深く、愛して止まない。
囃子(花か雪かと、どうして見分けようか。雪の降り積もった枝に咲いたこの花。)
深山の鶯
- 山の奥深くに潜んでいる鶯が春の訪れを知らせる様子
尾花
- ススキの別称。(動物の尾に似ていることが由来)
籬
- 竹、柴を編んでつくった垣
錦更紗
- 色彩豊かな文様を染めた布(木綿、絹)
演目:解説
あらまし
「四季口説」は季節の情景を詠みこんだ七五調の口説(※1)にあわせ、両手にもつ扇子を優雅にあつかいながら演じる若衆踊りです。
舞手が各節の囃子を唱え、春夏秋冬の彩りを引き立てながら表現していきます。
口説の内容は日本本土の情景が綴られており、江戸上り(※2)がおこなわれていた琉球王府時代に、大和芸能を積極的に取り入れて新しい沖縄芸能の開花を迎えた背景を伺い知ることができます。
口説(※1)
七句と五句を繰り返すリズミカルな七五調に道行の情景を述べていきます。かつて日本本土より伝わった節まわしとされ、基本は大和言葉を用いて歌います。
江戸上り(※2)
徳川将軍の襲封時のお祝いに派遣される慶賀使と、琉球国王の即位時のお祝いに派遣される恩謝使が江戸幕府へ赴くことを指します。
寛永11(1634)年より計18回おこなわれ、琉球王府の使節団は各100名前後で構成されていました。
みどころ
演目は「四季口説」の一曲に振り付けられ、春夏秋冬の情景を描きながら若衆の清伯さをもって演じていきます。
1番「春」を詠った口説の歌い出しより、両手に持つ扇子を優雅にあつかいながら、太鼓のリズムに足拍子をあわせて踊っていきます。
囃子の”深山鶯”の一節では、片手を上げ扇子の表面をみせる振りに春の訪れを知らせにきた鶯の様子をあらわし、つづく2番「夏」を詠った囃子の”山の下かげ”の一節で、両手を上部にかざして岩陰をつくる所作を演じます。
3番「秋」を詠った”秋は尾花が 打ち招く”の一節では、両手に持つ扇子を靡かせながらススキの姿を風情よくあらわし、4番「冬」を詠った”冬は霰の 音添えて”の一節で、片手に持つ扇子を上部から小刻みに揺らし、斜めに降ろす動作に霰の降る情景を写実的に描いていきます。
※流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。
古典舞踊の位置づけ
「四季口説」は、天保三(1832)年に薩摩屋敷で演じられた記録が残されており、演目名は「節口説」と記されています。
舞台表現も古典の様式を踏襲しているため、本サイトにおいては古典舞踊の若衆踊りとして紹介します。
『沖縄舞踊の歴史』、『小唄打聞 - 琉球唄十四章』(参考文献:一覧)
補足
演目の継承
沖縄本島より北西9kmに位置する伊江島では「四季口説」が二才踊りの演目として伝承され、島内の東地区(東江上、東江前、阿良)と西地区(西江上、西江前、川平、西崎)では、それぞれに踊りの所作や楽曲の歌詞に違いがみられます。
参考サイト:伊江村役場 - 伝統文化
他にも、奄美群島の南西部に位置する沖永良部島では、「国頭字 四季口説」という演目名で現在まで独自に伝承されてきました。
各島によって、演目の表現体系に違いがみられますが、四季の彩りを詠った内容は共通しています。
古典音楽
古典音楽のカテゴリーでは、「節口説」の曲目について解説しています。
「節口説」- 古典音楽
工工四 印刷・保存 【工工四について】 歌詞 1. さてもめでたやさてもめでたや 新玉のあらたまの 春は心もはるはこころも 若がえてわかがえて 四方の山辺のよものやまべの 花盛りはなざか ...
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参考文献一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において参考にさせて頂いた全ての文献をご紹介します。 尚、引用した文章、一部特有の歴史的見解に関しては各解説ページの文末に該 ...
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