舞踊

「若衆揚口説」 - 古典舞踊/若衆踊り

2020年5月6日

揚口説あぎくどぅち(前段):歌詞

1.

げにや都のぢにやみやくぬ 春の空はるのすら 出づる日影もいんづぃるふぃかぢん のどかにてぬどぅかにてぃ 咲くや桜にさくやさくらに 梅の花うんみぬはな

2.

色と匂ひにいるとぅにをぅいに 誘はれてさすわりてぃ 老も若きもういんわかちん 諸共にむるとぅむに 袖を引きつれすでぃをぅふぃちつぃり 立ち出でてたちいんぢてぃ

3.

花のいろいろはなぬいるいる 籠に入れかぐにいり 此処や彼処にくくやかしくに 行き巡りいちみぐい 長き春日のながきはるふぃぬ 暮るヽまでくるるまでぃ

4.

帰る家路をかいるいえじをぅ うち忘れうちわしり 花をかざしてはなをぅかざしてぃ 舞ひ遊ぶまいあすぃぶ 春の景色のはるぬちしちぬ 面白やうむしるや

 

1.

本当にまあ春の空は日影ひかげものどかで、桜や梅の花が咲いている。

2.

花の色と匂いに誘われて、いもわかきもみな一緒に連れだって。

3.

いろいろな花をかごに入れて、長い春の日が暮れるまであちらこちら巡り。

4.

家に帰ることも忘れて、花を飾って舞い踊る。春の景色のなんと素晴らしいことか。

 

口説くどぅち

18世紀頃に本土から伝わってきた音楽の形式で、七句と五句を繰り返す七五調しちごちょうのリズミカルなふしまわしに心情しんじょうを述べていきます。(琉歌りゅうかは八八八六調の形式)

 

かぎやで風節かじゃでぃふうぶし:歌詞

 

眺めてもあかぬながみてぃんあかん 春の景色はるぬちしち

 

いくらながめてもきない、春の景色。

 

湊くり節んなとぅくいぶし(後段):歌詞

 

春雨に濡れてはるさみにぬりてぃ 野辺の百草やぬびぬむむくさや

みどり挿し添えてみどぅりさしすいてぃ 春が美らさはるがちゅらさ

 

野辺の春景色ぬびぬはるぢしち みどり挿し添えてみどぅりさしすいてぃ

十七八頃のじゅうしちはちぐるぬ 無蔵が姿んぞがすぃがた

 

春雨にれた野辺のべのいくつもの草は、

緑がえて、春(の季節)の美しいことよ。

野辺のべ春景色はるげしき、緑が映えて、

十七、八歳頃のいとしい人の姿のよう。

 

無蔵んぞ

無蔵んぞ」は、男性が思いをよせる愛しい女性のことを示す言葉です。
対して、女性が思いをよせるいとしい男性を言いあらわす場合は、「さとぅ」と呼びます。

 

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若衆揚口説わかしゅあぎくどぅち」:演目解説

 

あらまし

平安な世を寿ぎ、若衆わかしゅ清伯せいはくな姿に春の息吹いぶきを映し重ね、花が織りなす長閑のどか情景じょうけいを描いた演目です。

前半は紅白のひもで結んだ花籠はなかごかつぎ、後半は陣笠じんがさを手に持って演じていきます。

 

古典舞踊の位置づけ

若衆揚口説わかしゅあぎくどぅち」は、昭和しょうわ三十三(1958)年に島袋光裕しまぶくろこうゆう師が資料を参考に振り付けた演目になります。(参考:『琉舞手帖』参考文献:一覧

この踊りの原型「若衆おとり・杖笠」の記録が「踊番組(※1)」に残されており、楽曲は「揚口説あぎくどぅち」、「かぎやで風節かじゃでぃふうぶし」の二曲で構成されています。

戦後につくられた創作舞踊の位置づけではありますが、上述より古典の様式ようしき踏襲とうしゅうしているため、本サイトにおいては古典舞踊(その他)として紹介いたします。

 

踊番組(※1)

慶応2(1866)年におこなわれた寅年御冠船とらどしうかんしんを記録した文献。

 

※略歴

島袋光裕しまぶくろこうゆう(1893-1987)
沖縄県那覇市に生まれる。
琉球芸能役者、舞踊家、書家、島袋本流紫の会初代家元、国指定重要無形文化財「組踊くみうどぅい」保持者。
伝統芸能の研究を重ね、郷土演劇界に大きく寄与し、戦後に組織された民政府文化部の「松竹梅」三劇団結成に携わるなど活躍される。
代表する作品に、「葉かんだ」、「みやらび」、「若衆揚口説」、「謝名兄弟」、「夫婦鶴」、著書に「石扇回想録」がある。

 

みどころ

演目は「揚口説あぎくどぅち」、「かぎやで風節かじゃでぃふうぶし」、「湊くり節んなとぅくいぶし」の三曲で構成され、春の訪れを色彩豊かに表現しながら演じていきます。

前段ぜんだん揚口説あぎくどぅち」の前奏で陣笠姿じんがさすがた花籠はなかごかついで登場し、舞台中央で基本立ちになると、歌い出しより一連の手の振りにあわせて花籠はなかごと両手に持つ紅白のひもはなやかに描き演じていきます。

前後半ぜんこうはんのつなぎで、「かぎやで風節かじゃでぃふうぶし」の荘厳そうごん曲調きょくちょうを展開し、演目のおもむきをより一層引き立たせています。

後段こうだん湊くり節んなとぅくいぶし」は、手に持ち替えた陣笠じんがさを軽快にあつかいながら平安の世を寿ことほぎ、鮮やかに緑映みどりばえした春の情景じょうけい若衆わかしゅ溌溂はつらつさをもって演じていきます。

流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。

 

補足

 

初春はつはる

真境名由康まじきなゆうこう師が創作した舞踊に「初春はつはる」という作品があります。

この演目は、「揚口説あぎくどぅち」、「かぎやで風節かじゃでぃふうぶし」、「早口説はやくどぅち」の三曲で構成され、前半は「若衆揚口説わかしゅあぎくどぅち」と同じく紅白のひもを結んだ花籠はなかごを肩にかつぎ、後半は両手に二本の扇子せんすを持って演じられます。

どちらの演目も古典舞踊の様式ようしき踏襲とうしゅうし、完成度の高い作品となっています。

 

※略歴

真境名由康まじきなゆうこう(1889-1982)
沖縄県那覇市に生まれる。
琉球芸能役者、舞踊家、眞境名本流眞薫会初代家元、国指定重要無形文化財、「組踊くみうどぅい」保持者。
戦後の沖縄伝統芸能の復興、継承発展に大きく寄与し、珊瑚座さんござの結成をはじめ、往年に渡り活躍される。
代表する作品に、創作舞踊の「渡ん地舟(ワタンジャー)」、「糸満乙女」、「初春」、組踊の「金武寺の虎千代」、「人盗人」「雪払い」、歌劇の「伊江島ハンドー小」がある。

 

早口説はやくどぅち:歌詞

 

さても浮き世はさてぃむうちゆは 小車のおぐるまの 巡り巡りてめぐりめぐりて 新玉のあらたまの

年立ち替るとしたちかわる 春来ればはるくれば 松も千年のまつのちとせの 色添えていろそえて

梅は匂いてうめはにおいて 花も咲くはなもさく 庭の青柳にわのあおやぎ 糸垂れていとたれて

山はかすみてやまはかすみて 久方のひさかたの 空も長閑にそらものどかに 照る月もてるつきも

光輝くひかりかがやく 四方の海よものうみ 波も静かになみもしずかに 吹く風もふくかぜも

枝を垂らさんえだをたらさん この御代にこのみよに 山に隠れてやまにかくれて 住む人もすむひとも

君につかえんきみにつかえぬ 時を得てときをえて 花の都にはなのみやこに 皆出てみないでて

山の奥にはやまのおくには 住家処なしすみかなし

 

歌詞引用:『沖縄の歌と踊り - 新春 祝儀の舞』NHK沖縄放送局

 


 

参考文献(本)のイメージ画像
参考文献:一覧

書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において、参考にした全ての文献をご紹介します。     1.『定本 琉球国由来記』 著者:外間 守善、波 ...

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マブイ

ニライカナイから遊びにやってきた精霊。
伝統芸能の継承と発展を見守りつづけています。

好きな食べ物:苔
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