しょんだう節:歌詞
”シュンドー” 諸屯長浜に ”ヨウアシュンドー” 打ちやり引く波の ”ヨウアシュンドー”
”シュンドー” 諸屯女童の ”ヨウアシュンドー” 目笑ひ歯口 ”ヨウアシュンドー”
”シュンドー” 諸屯女童の ”ヨウアシュンドー” 雪のろの歯口 ”ヨウアシュンドー”
”シュンドー” いつか夜の暮れて ”ヨウアシュンドー” 御口吸はな ”ワタチャンドーアシェウキトゥタサ”
訳
諸屯村の長浜に打ち寄せて引く波は、
諸屯村の娘が微笑むときに見せる目と歯並びのよう。
諸屯村の娘の雪のような白い歯に口元、
そのうちに日が暮れたら口づけをしよう。
諸屯長浜
- 現在の加計呂麻島の諸鈍(鹿児島県大島郡瀬戸内町大字諸鈍)に位置する浜辺。(※補足追記)
諸鈍女童
- 諸屯の乙女
- 諸屯の娘
それかん節:歌詞
油買てたばうれ ぢはも買ふてたばうれ ”ウンマサミ”
捨て夫の見る前 みなでしゃべら ”スリカン”
阿旦垣だいんす 御衣掛けて引きゆり ”ウンマサミ”
だいんす元べらひや 手取て引きゆら ”スリカン”
訳
(髪につける)油を買ってください、簪(かんざし)も買ってください。
私を捨てた夫の見る手前、身だしなみを整えましょう。
(棘のある)阿旦の海垣でさえも、着物を引っ掛け引き寄せるのです。
ですから、昔心を交わした貴方なら手を取って引き寄せてくれるでしょう。
簪(かんざし)
- 琉球王府時代、身分により異なった素材(王族は金、士族は銀、平民は真鍮や木)の簪(かんざし)を挿す習わしがある。先端部は尖っているため護身用の武器にもなり、逆側のスプーンのような形状は整髪用の油をすくうために使用する。
阿旦垣(海垣)
- パイナップルに似た果実をつけ、葉は鋭い棘を持つ。枝からは複数の支柱根が土に向かって生え、風に強く倒れにくいことから人々の暮らしを守る防風防潮林として、阿旦(アダン)の木を植栽し海垣を築いている。海垣は生物の生息域を形成し、ヤシガニ、オカヤドカリ、オカガニの住処、ウミガメの産卵などの環境保全にも役立つ。
やれこのしい節:歌詞
押し連れて互に 遊び欲しゃあすが
むぢやれ匂ひ高さ 別て遊ば
”アスィビュサヲゥドゥユサヒヨウシヌヤリクヌシヤリクヌシ”
よも面の美らさ どく頼で居るな
縁ど肌添ゆる 浮世知らね
訳
連れ立って一緒に遊びたいのですが、
匂いがきついので、離れて遊びましょう。
顔が美しいからといって自惚れなさんな。
(男女は)縁があって結ばれることが、世の常だということを知らないのかい。
演目:解説
あらまし
対照的な各二組の美女と醜女が互いの情感を掛け合いながら展開する打組踊り(※1)です。
緋色の衣装に鮮やかな髪飾りをつけて優雅に舞う美女に対し、醜女は地味な衣装に安物の大きな簪(かんざし)を指して滑稽な仕草で両者の対比を描いています。
お面を用いて踊る唯一の古典舞踊で、琉球王府時代より踊られていた様子が『琉球人舞楽御巻物』(参考文献:一覧)に描かれています。
また、上演する舞台の最後に演じられることから「御後段踊り」と呼んでいます。
打組踊り(※1)
対照的な関係にある者(美女醜女、男女など)が組み合って踊る形式の演目。
みどころ
演目は「しょんだう節」、「それかん節」、「やれこのしい節」の三曲で構成されます。
第一曲目「しょんだう節」の前奏で二人の美女が《角切り※2》で慎ましく登場し、曲目の歌い出しより淑やかに手の振りを揃えて上品に美しさを表現していきます。
やがて二人の醜女が小走りに登場すると、美女とは対照的に滑稽な手の振りをもって散り散りに踊っていきます。
第二曲目「それかん節」では美女のすました踊りと醜女のおどけた踊りを対面になって演じながら時折交差して、両者の対比を浮き彫りに表現していきます。
第三曲目「やれこのしい節」は曲目の前半を美女が踊り、”むぢやれ匂高さ 別て遊ば”の一節で「匂いがきついので別れて遊びましょう」と冷淡な態度をとって下手奥へ去っていきます。
一方、残された醜女は曲目の後半で悪態をついて滑稽に踊り、”縁ど肌添ゆる 浮世知らね”の一節で「人間は顔ではなく、ご縁(心)が大切である」と美女に対する妬み心を人生訓に置き換えて踊りを納めていきます。
演目を鑑賞していると、醜女の悪態ばかりに着目しがちですが、美女の冷淡な心に対する教訓的な要素が含まれているところに演目の深い趣があります。
※流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。
《角切り※2》
踊り手が舞台を斜めに、下手奥から上手前へ向かって対角線上に歩み出ること。
出羽/中踊り/入羽
出羽は踊り手が登場する出の踊りです。
中踊りは舞台中央奥で立ち直りをしたあとの本踊りを指し、入羽は舞台下手奥に戻っていく納めの踊りのことを指します。
琉球古典舞踊の基本構成は、この三部のつながりで構成されています。
補足
諸鈍長浜
「諸鈍長浜」は、デイゴ並木が連なる風光明媚な観光名所として知られ、かつては各国との交易の入口として様々な文化が交わる地域でした。
毎年、旧暦九月九日になると「諸鈍シバヤ」という芸能祭(国指定重要無形民俗文化財)がこの地区にある大屯神社にて奉納されます。
「諸鈍シバヤ」は、源平の戦いで敗れた平家一門の武将がこの地に逃れ、土地の人との交流を深めるために伝えられたことが始まりとされ、名の由来は芝居(シバイ)が転訛したものといわれています。
11種の演目で構成され、踊り手はカビディラという紙のお面をつけ、陣笠風の笠をかぶり三味線と囃子にのせて演じていきます。
このカビディラのお面は醜女のお面とのつながりを感じ受けます。
古典音楽
古典音楽のカテゴリーでは、「しよどん節」の曲目について解説しています。
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「しよどん節」- 古典音楽
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参考文献一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において参考にさせて頂いた全ての文献をご紹介します。 1.『定本 琉球国由来記』 著者:外間 守 ...
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