古典舞踊

「若衆揚口説」 - 古典舞踊/若衆踊り

揚口説:歌詞

1.

げにや都のぢにやみやくぬ 春の空はるのすら 出づる日影もいんづぃるふぃかぢん のどかにてぬどぅかにてぃ 咲くや桜にさくやさくらに 梅の花うんみぬはな

2.

色と匂ひにいるとぅにをぅいに 誘はれてさすわりてぃ 老も若きもういんわかちん 諸共にむるとぅむに 袖を引きつれすでぃをぅふぃちつぃり 立ち出でてたちいんぢてぃ

3.

花のいろいろはなぬいるいる 籠に入れかぐにいり 此処や彼処にくくやかしくに 行き巡りいちみぐい 長き春日のながきはるふぃぬ 暮るるまでくるるまでぃ

4.

帰る家路をかいるいえじをぅ うち忘れうちわしり 花をかざしてはなをぅかざしてぃ 舞ひ遊ぶまいあすぃぶ 春の景色のはるぬちしちぬ 面白やうむしるや

 

1.

まことに都の春の空は日影ひかげ長閑のどかで、桜や梅の花が咲いている。

2.

色と匂いに誘われて、いもわかきもみな連れだって。

3.

さまざまの花をかごに入れてあちらこちらに巡りましょう。長い春の日が暮れるまで。

4.

家に帰ることも忘れて、花を飾って舞い踊る。春の景色のなんと素晴らしいことか。

 

かぎやで風節:歌詞

 

眺めてもあかぬながみてぃんあかん 春の景色はるぬちしち

 

いくらながめてもきない、春の景色。

 

湊くり節:歌詞

 

春雨に濡れてはるさみにぬりてぃ 野辺の百草やぬびぬむむくさや

みどり挿し添えてみどぅりさしすいてぃ 春が美らさはるがちゅらさ

 

野辺の春景色ぬびぬはるぢしち みどり挿し添えてみどぅりさしすいてぃ

十七八頃のじゅうしちはちぐるぬ 無蔵が姿んぞがすぃがた

 

春雨にれた野辺のべのいくつもの草は、

緑がえて、春(の季節)の美しいことよ。

野辺のべ春景色はるげしき、緑が映えて、

十七、八歳頃のいとしい人の姿のよう。

無蔵んぞ

  • 男性が思いをよせる女性に対して使う言葉。女性が思いを寄せる男性に使うときは「さとぅ」と呼ぶ。

 

琉球古典舞踊 若衆踊り「若衆揚口説」のイラスト

琉球古典舞踊 若衆踊り「若衆揚口説」

 

演目:解説

 

あらまし

若衆揚口説わかしゅあぎくどぅち」は平安な世を寿ぎ、若衆わかしゅ清伯せいはくな姿に春の息吹いぶきを映し重ね、花が織りなす長閑のどか情景じょうけいを描いた演目です。

前半は紅白のひもで結んだ花籠はなかごかつぎ、後半は陣笠じんがさを手に持って演じていきます。

 

口説くどぅち

七句と五句を繰り返すリズミカルな七五調しちごちょうに道行の情景じょうけいを述べていきます。かつて日本本土より伝わったふしまわしとされ、基本は大和言葉を用いて歌います。

 

みどころ

演目は「揚口説あぎくどぅち」、「かぎやで風節かじゃでぃふうぶし」、「湊くり節んなとぅくいぶし」の三曲で構成され、春の訪れを色彩豊かに表現しながら演じます。

前段ぜんだん揚口説あぎくどぅち」の前奏で陣笠姿じんがさすがた花籠はなかごかついで登場し、舞台中央で基本立ちになると、歌い出しより一連の手の振りにあわせて花籠はなかごと両手に持つ紅白のひもはなやかに描いて演じていきます。

前後半ぜんこうはんのつなぎでは「かぎやで風節かじゃでぃふうぶし」の荘厳そうごん曲調きょくちょうを展開し、演目のおもむきをより一層引き立たせます。

後段こうだん湊くり節んなとぅくいぶし」は手に持ち替えた陣笠じんがさを軽快にあつかいながら、平安の世を寿ことほぎ、鮮やかに緑映みどりばえした春の情景じょうけい若衆わかしゅ溌溂はつらつさをもって演じていきます。

流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。

 

古典舞踊の位置づけ

若衆揚口説わかしゅあぎくどぅち」は昭和しょうわ三十三(1958)年に島袋光裕しまぶくろこうゆう師が古い資料を参考に再構成して振り付けた演目になります。《参考:『琉舞手帖』》

演目の原型といわれる「若衆おとり・杖笠」が、慶応2(1866)年の寅年御冠船とらどしうかんしん(※1)を記録した『踊番組』に残されており、楽曲は「揚口説あぎくどぅち」、「かぎやで風節かじゃでぃふうぶし」の二曲で構成されています。

戦後につくられた創作舞踊の位置づけではありますが、古典の様式ようしき踏襲とうしゅうしているため、本サイトにおいては古典舞踊(その他)として紹介しています。

 

御冠船(※1)

琉球国王の即位時に、冊封使さっぽうしみんしんの使者)を歓待する祝宴で演じられた諸芸能のことを指します。

皇帝より授けられた冠をたずさえて来航らいこうしたことから「御冠船うかんしん」という名がつき、1404年から1866年の間、計22回おこなわれました。

 

略歴

島袋光裕しまぶくろこうゆう(1893-1987)
沖縄県那覇市に生まれる。
琉球芸能役者、舞踊家、書家、島袋本流紫の会初代家元、国指定重要無形文化財「組踊くみうどぅい」保持者。
伝統芸能の研究を重ね、郷土演劇界に大きく寄与し、戦後に組織された民政府文化部の「松竹梅」三劇団結成に携わるなど活躍される。
代表する作品に、「葉かんだ」、「みやらび」、「若衆揚口説」、「謝名兄弟」、「夫婦鶴」、著書に「石扇回想録」がある。

 

補足

 

初春はつはる

真境名由康まじきなゆうこう師が創作した舞踊に「初春はつはる」という作品があります。

この演目は「揚口説あぎくどぅち」、「かぎやで風節かじゃでぃふうぶし」、「早口説はやくどぅち」の三曲で構成され、前半は「若衆揚口説わかしゅあぎくどぅち」と同じく紅白のひもを結んだ花籠はなかごを肩にかつぎ、後半は両手に二本の扇子せんすを持って演じられます。

どちらの演目も古典舞踊の様式ようしき踏襲とうしゅうし、完成度の高い作品となっています。

 

略歴

真境名由康まじきなゆうこう(1889-1982)
沖縄県那覇市に生まれる。
琉球芸能役者、舞踊家、眞境名本流眞薫会初代家元、国指定重要無形文化財、「組踊くみうどぅい」保持者。
戦後の沖縄伝統芸能の復興、継承発展に大きく寄与し、珊瑚座さんござの結成をはじめ、往年に渡り活躍される。
代表する作品に、創作舞踊の「渡ん地舟(ワタンジャー)」、「糸満乙女」、「初春」、組踊の「金武寺の虎千代」、「人盗人」「雪払い」、歌劇の「伊江島ハンドー小」がある。

 

早口説はやくどぅち

 

さても浮き世はさてぃむうちゆわ 小車のおぐるまぬ 巡り巡りてみぐりみぐりてぃ 新玉のあらたまぬ

年立ち替るとぅしたちかわる 春来ればはるくりば 松は千年のまつぃわちとぅしぬ 色添えているすゐてぃ

梅も匂ひてんみんにをぅゐてぃ 花も咲くはなもさく 庭の青柳にわのあおやぎ 糸垂れていとぅたれて

山はかすみてやまわかすみて 久方のひさかたの 空も長閑にそらものどかに 出づる陽もいずるひも

光輝くひかりかがやく 四方の海よものうみ 波も静かになみもしずかに 吹く風もふくかぜも

枝をならさぬえだをならさん 御代ぞとてみよぞとて 山に隠れてやまにかくれて 住む人もすむひとも

君につかえぬきみにつかえん 時を得てときをえて 花の都にはなのみやくに 皆出てみないでて

山の奥にはやまのおくには 住家処なしすみかなし

 

古典音楽

古典音楽のカテゴリーでは、「揚口説あぎくどぅち」、「かぎやで風節かじゃでぃふうぶし」、「湊くり節んなとぅくいぶし」の曲目について解説しています。

 

琉球寒緋桜(八重岳)
「揚口説」- 古典音楽

工工四 印刷・保存 【工工四について】   歌詞 1. げにや都のぢにやみやくぬ 春の空はるのすら 出づる日影もいんづぃるふぃかぢん のどかにてぬどぅかにてぃ 咲くや桜にさくやさくらに 梅の ...

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カンヒザクラの花
「かぎやで風節」- 古典音楽

工工四 印刷・保存 【工工四について】   歌詞   今日の誇らしややきゆぬふくらしゃや 何にぎやな譬てるなをぅにぢゃなたてぃる 莟で居る花のつぃぶでぃをぅるはなぬ 露行逢た如つぃ ...

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雨上がりに照り輝く光(イメージ)
「湊くり節」- 古典音楽

工工四 印刷・保存 【工工四について】   歌詞   かさに音たててかさにうとぅたてぃてぃ 降たる夏ぐれもふたるなつぃぐりん なまやうちはれてなまやうちはりてぃ てだどてゆるてぃだ ...

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参考文献(沖縄の本)のイメージ画像
参考文献一覧

書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において参考にさせて頂いた全ての文献をご紹介します。 尚、引用した文章、一部特有の歴史的見解に関しては各解説ページの文末に該 ...

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マブイ

ニライカナイから遊びにやってきた豆電球ほどの妖怪です。

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