「述懐節」（ニ揚調）- 古典音楽

工工四

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【工工四について】

歌詞

拝でなつかしやをぅがでぃなつぃかしや　まづせめてやすがまづぃしみてぃやすぃが

別ておもかげのわかてぃうむかぢぬ　たたばきやしゆがたたばちゃしゅが

訳

お会いして（別れ際を思うと）悲しくなるのはまあ仕方はないが、

お別れした後、あなたの面影が立ったらどうしたらよいものか。

拝でをぅがでぃ

お会いして
顔を拝見して

なつかしやなつぃかしや

悲しい
切ない（悲しいほど愛しい）

※ この語句は”懐かしい”の意味を持つが、沖縄の古語では”悲しい”を常用する。

まづせめてやすがまづぃしみてぃやすが

まあ仕方はないが

おもかげうむかぢ

心に思い浮かべる姿

解説

「述懐節しゅっくぇーぶし（ニ揚調にあぎちょう）」は惹ひかれ合う男女の束つかの間まの逢瀬おうせを名残なごり惜おしんで詠よまれた歌曲です。

現代のように自由恋愛が適かなわなかった時代、身分の差を違たがえて惹ひかれ合う男女が人目につかぬように忍しのび逢あい、互いに契ちぎりを交わすひと時はさぞかし一入ひとしおであったことでしょう。

しかし、楽しい時間は駆け足で過ぎ去るもので、恋に身をやつせばその熱量に乗じょうじて別れた後の悲しみも増していきます。

「述懐節しゅっくぇーぶし（ニ揚調にあぎちょう）」は中弦なかぢるを一音上げる二揚調にあぎちょう（調弦法）で演奏され、この情感ある曲想を「情節じょうぶし」と称し、琉球古典音楽では「干瀬節ふぃしぶし」、「子持節くゎむちゃーぶし」、「散山節さんやまぶし」、「仲風節なかふぅぶし」と共に独唱曲（一人節）として愛唱されてきました。

面影（シルエット）

補足

組踊

組踊くみうどぅい（※1）の演目「手水の縁てぃみじぬいん」では、愛する人と別れを惜おしむ場面で「述懐節しゅっくぇーぶし（ニ揚調にあぎちょう）」が効果的に演奏されます。

組踊くみうどぅい（※1）

琉球王国時代の1719年に踊奉行おどりぶぎょう（式典の際に舞台を指揮、指導する役職）の任命を受けた玉城朝薫たまぐすくちょうくんにより創始された歌舞劇かぶげきです。

台詞せりふ、舞踊、音楽の三つの要素から構成された古典芸能で、1972年に国の重要無形文化財に指定され、2010年には世界のユネスコ無形文化遺産に登録されました。

略歴

■玉城朝薫たまぐすくちょうくん（1684年-1734年）
首里儀保村しゅりぎぼむらに生まれる。
琉球王国の官僚で冊封式典の踊奉行おどりぶぎょうを務める。国劇である組踊くみうどぅいの創始者であり、多くの芸術作品を生み出す。
「二童敵討にどうてぃちうち」、「執心鐘入しゅうしんかにいり」、「銘苅子みかるしー」、「孝行の巻こうこうぬまち」、「女物狂うんなむぬぐるい」を朝薫五番ちょうくんごばんと称す。

略歴

■平敷屋朝敏へしきやちょうびん（1700-1734）
沖縄県那覇市首里金城村に生まれる。（首里士族の家系）
和文学者、和文物語作者。
組踊くみうどぅいの「手水の縁てぃみじぬいん」をはじめ、「若草物語わかくさものがたり」、「苔の下こけのした」、「萬歳まんざい」、「貧家記ひんかき」、他に和歌や琉歌を残す。