湊くり節:歌詞
笠に音たてて 降たる夏雨も
今や打ち晴れて 太陽ど照ゆる
今や打ち晴れて 太陽も照り勝て
かなし思無蔵よ 照らすとめば
訳
笠に音たてて降った夏の雨(にわか雨)も、
今はすっかり晴れて太陽が照っている。
今は晴れあがって太陽も照り輝き、
愛しく思う貴女を照らしているだろう。
無蔵
- 「無蔵」は男性が思いをよせる愛しい女性のことを示す言葉。対して女性が思いをよせる愛しい男性を言いあらわす場合は「里」と呼ぶ。
中作田節:歌詞
月夜や月と思て 明ける夜や知らぬ
女童腕枕 な夜や明かち
訳
月夜とばかり思って明ける夜も知らず、
乙女の腕枕をしているうちに夜が明けてしまったようだ。
女童
- 乙女
- 娘
浮島節:歌詞
今日や御行逢拝で いろいろの遊び
明日や面影の 立ちゆと思みば
訳
今日はお逢いしてたくさん遊ぶことができた(楽しかった)が、
明日、面影が立つと思うと(心が切なくなります)。
高離節:歌詞
高離島や 物知らせどころ
にや物知やべたん 渡ちたばうれ
訳
高離島は不条理を教えてくれるところ
もう分かりましたので、故郷に渡して(帰して)ください。
高離島
- 沖縄県うるま市の勝連半島に属する宮城島の別称で、周囲の島々にくらべ海抜が高い地形で形成されている。
高離節の歌碑
元は琉球王国の士族であった平敷屋朝敏(※下記参照)の妻である真亀が残した琉歌です。
1734年、平敷屋朝敏は琉球王府への体制批判を先導したことにより反逆の罪で逮捕され、後に処刑されてしまいます。
残された妻の真亀は子を連れて高離島へ島流しにされ、身における立場の苦しさや離島で生活する地理的な厳しさを交えて琉歌に詠みこんでいった背景があります。
略歴
■平敷屋朝敏(1700-1734)
沖縄県那覇市首里金城村に生まれる。(首里士族の家系)
和文学者、和文物語作者
作品には組踊の「手水の縁」をはじめ、「若草物語」、「苔の下」、「萬歳」、「貧家記」、他に和歌や琉歌を残す。
演目:解説
あらまし
平安の世を寿ぎながら手に持つ陣笠を軽快にあつかい、晴れやかな思いを太陽が照り輝く情景に映し重ねて描いた演目になります。
陣笠は合戦時に兵士が着用する被り物のことを指し、衣装は他の二才踊りと同じく黒紋服を着る習わしですが、時に水色などのさわやかな色の衣装を着て演じられることもあります。
みどころ
演目は各流派によって楽曲構成が大きく異なり、「湊くり節」を軸に後段は「中作田節」、「高離節」、「浮島節」、他数種の楽曲を組み合わせて演じられています。
また、同じ楽曲構成でも踊りの所作に違いがみられ、それぞれに工夫をこらしながら演じているため、本文では「湊くり節」、「中作田節」の組み合わせにしぼり、演目全体の大まかな流れを記していきます。
前段「湊くり節」の前奏より、陣笠を手に持って舞台下手奥から上手奥へ向かって直線に歩み、”笠に音たてて”の歌い出しより陣笠を軽快にあつかいながら太陽が照り輝く情景を両手の振りにあらわして、晴れやかな心持ちを描いていきます。
演目全体を通して太鼓のリズムにあわせながら足拍子をとって、踊りにアクセントをつけていきます。
後段「中作田節」では愛する人と共に過ごす一場のよろこびを二才踊りの力強い演技で展開し、争いのない平安な世を寿ぎながら踊りを納めていきます。
※流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。
補足
「杖笠」:二才踊り
「湊くり節」の歴史を紐解いていくと、慶応2(1866)年の寅年御冠船(※1)を記録した『踊番組』には演目の名前や楽曲の歌詞、表現形式に関連性のある二才踊りがいくつか残されています。
その中に記録されている「杖笠」の演目を取り上げると、前段が「与那節」、後段は「しゅさい節」で構成されています。
時代の流れと共にいくつかの演目を再編しながら、現代に受け継がれてきたのでしょう。
御冠船(※1)
琉球国王の即位時に、冊封使(明、清の使者)を歓待する祝宴で演じられた諸芸能のことを指します。
皇帝より授けられた冠を携えて来航したことから「御冠船」という名がつき、1404年から1866年の間、計22回おこなわれました。
与那節
よなの高ひらや あせはてと登る
無蔵と二人なりは 車とふはる
訳
与那の急な坂は汗を流して登るほど大変だが、
愛しい人と二人ならば牛車のように登れるのである。
しゅさい節
笠に音たてゝ ふたる夏くりや
なまや打晴て てたと照よる/\
訳
笠に音をたてて降っていた夏雨(夕立ち)も、
今はすっかりと晴れて太陽が照り輝いている。
引用:『南島採訪記』
古典音楽
古典音楽のカテゴリーでは、「浮島節」の曲目について解説しています。
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「浮島節」- 古典音楽
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参考文献一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において参考にさせて頂いた全ての文献をご紹介します。 1.『定本 琉球国由来記』 著者:外間 守 ...
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