工工四
歌詞
恋し津波村や 知らねども親子
肝の思出しど 道しるべと思て
歩で歩まらぬ 山路ふみ分けて
頼む津波村や 今ど着きやる
訳
恋しい津波村(までの道のり)は知らないけれども親子は
心に思い出すことを道しるべにして
歩くのが困難な山路を踏み分けて
頼みの津波村に今ばかり到着した
津波村
- 大宜味間切津波村(現在の大宜味村津波)
肝
- 心情
- 心
- 気持ち
- ハート
- 肝臓
歩で歩まらぬ
- 歩くにも歩けない
- 歩くのが困難な
解説
期待と不安を抱えて旅立つ親子の心情を目的地までの険しい山道に映し重ねて詠み込んだ歌曲です。
「長金武節」は組踊(※1)の「花売の縁」の演奏曲として構成されており、長い間、音信不通であった夫を探すため、母子が連れ立って旅に出る道行のシーンで演奏されます。
通常、琉歌は”八・八・八・六”の計30音で詠われますが、本曲は「金武節」の旋律を借用し、八音を四つ足した長歌形式で詠まれていることから「長」の字を節名に付け加えられたと考えます。
また、組踊(※1)の「花売の縁」で演奏する際は、さらに八音を四つ足して歌われます。(上記、工工四参照)
組踊(※1)
琉球王国時代の1719年に踊奉行(式典の際に舞台を指揮、指導する役職)の任命を受けた玉城朝薫により創始された歌舞劇です。
台詞、舞踊、音楽の三つの要素から構成された古典芸能で、1972年に国の重要無形文化財に指定され、2010年には世界のユネスコ無形文化遺産に登録されました。
「花売の縁」
首里の下級武士である森川の子はここ数年いろいろと不仕合せなことが重なり、親子三人で暮らすことがとうとう困難な状態に陥りました。
夫婦で話し合った結果、森川の子は遠く山原の村へ働き口を探しに行き、妻の乙樽は身分の高い家の乳母として奉公に出向いて、どちらかの暮らしが良くなったらまた家族で暮らす約束をして別れました。
それから十二年という長い年月が過ぎ去り、ようやく妻子の生活にもゆとりが見えはじめると、妻の乙樽は兼ねてからの約束を果たすために子供の鶴松を連れて音信不通であった夫を探しに旅に出ます。
旅の道中で出会う猿引の芸に心を和ませたり、蒔取りの老人から夫の消息を聞き付け、今も心意気を失わずに暮らしている様子を伺いながら旅を続けます。
人の往来が絶えない賑やかな大宜味村の塩谷田港に到着し、夫の居場所を探していると目の前に花売の男が現われます。
乙樽には感じるものがあり、梅の花を買い求めたその時、花売は自分の妻と子供だと気付きます。
森川の子は自身の落ちぶれた姿を恥じて身を隠しますが、乙樽の説得に心を開いて、家族の再会を歓び、共に首里へ戻るのでした。
補足
歌曲の形式
長歌形式で構成された古典音楽は「長金武節」の他にも、「本部長節」、「永良部節」も同じ形式で詠まれています。
以下、琉球音楽で使用される主な形式の分類になります。
形式
- 短歌(たんか):
音数律が〔八・八・八・六〕の計三十音で構成される一般的に詠われている琉歌。 - 長歌(ちょうか):
八の音句が短歌よりも長く続く形式。 - 仲風(なかふぅ):
上句が和歌の音数律〔七・五〕〔五・五〕で構成され、和歌と琉歌を折衷して詠まれた形式。 - 口説(くどぅち):
七句と五句を繰り返す七五調の節回しに物語的要素を持つことが特徴である。 - 連歌(つらね):
長歌と同じく八の音句が長く続く形式であるが、長歌よりもさらに長く続き、女性から男性に宛てられた手紙の体裁で表現していることが特徴である。 - 木遣り歌(きやりうた):
八八調の連続で間に囃子の掛け合いが入る。木材の伐り出しや運搬をおこなうときの労働歌。
参考文献一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において参考にさせて頂いた全ての文献をご紹介します。 尚、引用した文章、一部特有の歴史的見解に関しては各解説ページの文末に該 ...
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