古典舞踊

「綛掛(かせかけ)」 - 古典舞踊/女踊り

干瀬節:歌詞

 

七読と二十読ななゆみとぅはてん 綛かけておきゆてかすぃかきてぃうちゅてぃ

里が蜻蛉羽さとぅがあけずぃば 御衣よすらぬんしゅゆすぃらに

 

七読ななゆみ二十読はてんの糸を糸巻きに巻いて(機織に)設置し、

愛しいあなたのためにとんぼの羽のように美しい着物を織って差し上げましょう。

七読と二十読ななゆみとはてん

  • ゆみ」とは織り機に掛ける糸の本数を示した単位で、80本を一読ちゅゆみとし、七読ななゆみ二十読はてんの単位を示す。(※補足参照)
  • 七読ななゆみは560本、二十読はてんは1600本の糸を必要とする。

 

七尺節:歌詞

 

枠の糸綛にわくぬいとぅかしに 繰り返し返しくりかいしがいし

掛て面影のかきてぃうむかぢぬ 勝て立ちゆさまさてぃたちゅさ

 

綛掛て伽やかしかきてぃとぅじや ならぬものさらめならんむぬさらみ

繰り返し返しくりかいしがいし 思ど増るうみどぅましゅる

 

綛枠に糸を繰りかえし繰り返し巻きつけていると、あなたの面影が浮かぶばかりです。

(さらに綛の状態から)糸巻きに糸を繰りかえし繰り返し巻くごとにあなたへの想いは増していきます。

綛枠と糸巻き

  • 綛枠とはつむいだ糸を綛の状態(扱いやすく束ねる)に巻き取るH型の枠のことを指します。

  • 糸巻きとは綛の状態から糸を環状かんじょうに巻き、中心軸を空洞くうどうにして苧環おだまきにする道具を指します。苧環おだまきの名前は植物の苧麻ちょま(別名:からむし)に由来しています。苧麻ちょまの植物繊維は丈夫で光沢に富むことから古くより糸の材料として使われてきました。

 

サアサア節:歌詞

 

綛もかけみちてかしんかきみちてぃ できやよ立ち戻らでぃちゃよたちむどぅら ”さぁ さぁ”

里や我が宿にさとぅやわがやどぅに 待ちゆらだいものまちゅらでむぬ ”さぁ さぁ”

 

糸も巻き終わりにして、そろそろ帰りましょうか。

愛しいあなたも家で待ちかねていらっしゃるでしょう。

 

演目の構成

三曲目の「サアサア節さあさあぶし」を「百名節ひゃくなぶし」に替えて演じる構成もあります。

しかし、近年では三曲目を演奏せずに省略することが多くなりました。

 

琉球古典舞踊 女踊り「綛掛(かせかけ)」のイラスト

琉球古典舞踊 女踊り「綛掛(かせかけ)」

 

演目:解説

 

あらまし

綛掛かしかき(かせかけ)」は繰り返しおこなう単調な労働の中に愛しい人を想う心象風景を映し重ねて描かれています。

かつて沖縄の女性は糸をつむぎ着物に仕立てるまでの全工程を手仕事でおこなっていました。

綛掛かしかきとはつむいだ糸をH型の枠に巻き取って綛の状態(扱いやすく束ねる)にした後、機織はたおりに設置する糸巻きに必要な長さの糸を巻き付ける作業工程を指します。

小道具の綛枠と糸巻きにりこまれた黒漆くろうるしに、あざやかな糸(赤・白・青・黄・緑)のコントラスト。

日常で働く姿を紅型の地色に右肩袖ぬきにした胴衣どぅじんにあらわし、女性の芯の強さのなかに奥ゆかしさと品位を内包ないほうして演じられます。

 

みどころ

綛掛かしかき(かせかけ)」は「干瀬節ふぃしぶし」、「七尺節しちしゃくぶし」の二曲または「サアサア節さあさあぶし」を含めた三曲で構成されます。

前段「干瀬節ふぃしぶし」の前奏にあわせて《角切りすみきり※1》で歩み、基本立ちしてから”七読と廿読ななよぅみとぅはてん”の歌い出しで《思い入れ※2》をおこないます。

続く”里が蜻蛉羽さとぅがあけずぃばに”の一節より、愛する人へ上等じょうとうな着物をつくって差し上げたいと思う女性の一途な心持ちをあらわしながら踊っていきます。

後段「七尺節しちしゃくぶし」は手に持つ小道具のかせ(枠)と糸巻をつかい情緒豊かにあらわし、女性の深い心の内を描いていきます。

掛て面影のかきてぃうむかじぬ”の一節で愛しい人への思いを燃焼させ、”ならぬものさらめならんむぬさらみ”の一節では《ガマク※3》を入れて重心を交互におきながら、繰り返しおこなう作業につの情愛じょうあいを映し重ねた感情表出は観る者の心をとらえます。

流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。

 

角切りすみきり※1》

踊り手が舞台を斜めに、下手奥しもておくから上手前かみてまえへ向かって対角線上に歩み出ること。

 

舞台図

舞台図

 

《思い入れ※2》

心に深く思いをそそぎこむ所作。

 

《ガマク※3》

腰骨の上のくびれた脇腹に呼吸を入れ、腰と上体をしっかりと固定する身体技法。

※息を吸いながら腰の移動をおこない、息を吐きながらその腰に上体を納める呼吸作用。

 

補足

 

昔の糸の数え方

 

読み方/本数

  • 片筋 かたすじ - 1本
  • 一葉 ちゅふぁ - 2本
  • 一手 ちゅてぃ - 8本
  • 一読 ちゅゆみ - 80本
  • 二読 たゆみ - 160本
  • 三読 みゆみ - 240本
  • 四読 ゆゆみ - 320本
  • 五読 いちゆみ - 400本
  • 六読 むゆみ - 480本
  • 七読 ななゆみ - 560本
  • 八読 えーん - 640本
  • 九読 くくにぃん - 720本
  • 十読 てぃーん - 800本
  • 十一読 ちーん - 880本
  • 十ニ読 てーん - 960本
  • 十三読 ぬーん - 1,040本
  • 十四読 ゐーん - 1,120本
  • 十五読 いちゐーん - 1,200本
  • 十六読 みーん - 1,280本
  • 十七読 とぅななゆみ - 1,360本
  • 十八読 とぅやゆみ - 1,440本
  • 十九読 とぅくくぬゆみ - 1,520本
  • 二十読 はてん - 1,600本

 

マブイ
一本一本の糸に愛情を込めて織った着物や手ぬぐいには魂が宿り、昔から家族の健康や安全を守ってくれるという言い伝えがあります。

 

古典音楽

古典音楽のカテゴリーでは、「干瀬節ふぃしぶし」、「七尺節しちしゃくぶし」、「サアサア節さあさあぶし」の曲目について解説しています。

 

古風な宿のイメージ画像
「干瀬節」- 古典音楽

工工四 三線を再生印刷・保存 【工工四について】   歌詞   里とめばのよでさとぅとぅみばぬゆでぃ いやでいゆめお宿いやでぃいゅみうやどぅ 冬の夜のよすがふゆぬゆぬゆすぃが 互に ...

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蜻蛉(とんぼ)の羽
「七尺節」- 古典音楽

工工四 三線を再生印刷・保存 【工工四について】   歌詞   七読と二十読ななゆみとぅはてん 綛かけておきゆてかすぃかきてぃうちゅてぃ 里が蜻蛉羽さとぅがあけずぃば 御衣よすらね ...

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屋根の上の月
「サアサア節」- 古典音楽

工工四 三線を再生印刷・保存 【工工四について】   歌詞   急ぎ立ち戻らいすぢたちむどぅら 月も眺めたいつぃちんながみたゐ 里や我宿にさとぅやわがやどぅに 待ちゆらだいものまち ...

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参考文献(沖縄の本)のイメージ画像
参考文献一覧

書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において参考にさせて頂いた全ての文献をご紹介します。 尚、引用した文章、一部特有の歴史的見解に関しては各解説ページの文末に該 ...

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  • この記事を書いた人

マブイ

ニライカナイから遊びにやってきた豆電球ほどの妖怪です。

好きな食べ物:苔
好きな飲み物:葉先のしずく

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