つなぎ節(前段):歌詞
あたり苧やうみやい 二十読布織やり
玉黄金里が 御衣よすらね
訳
屋敷内の畑に植えてある苧麻からとった麻糸で極上の布を織り、
大切な人へ着物をつくって差し上げましょう。
あたり
庭にある菜園。
苧
学術的には植物の苧麻(別名:からむし)のことを指しますが、沖縄本島では糸芭蕉に対しても同じく「苧引」と呼んでいることから、両方の植物を演目の解釈として示しています。
玉黄金里が
(玉や黄金のように)大切な愛しい人。
清屋節(後段):歌詞
あたり苧の中ご 真白ひき晒ち
里が蜻蛉羽 御衣裳よすらね
訳
屋敷内の畑に植えた糸芭蕉の芯を真っ白にさらして、
大切な人へとんぼの羽のように薄くて上質な着物をつくって差し上げましょう。
苧引
採取した苧麻(別名:からむし)や糸芭蕉の外側の皮を剥いでから、不純物を取り除くために木灰(アルカリ成分)をくわえて煮込みます。
厳密にいうと苧引の工程はここからで、煮込んだ皮を竹ばさみに挟んで何度も丁寧に擦ることで不純物を取り除き、上質な繊維を採取する工程範囲を指します。
苧麻(別名:からむし)糸芭蕉の繊維は丈夫で光沢に富むことから布生地の材料として使われてきました。
「苧引」:演目解説
あらまし
糸を紡いで布に仕立てるまでの作業を一連の美しい手踊りで表現していきます。
昔は、植えてある苧から繊維を剥ぎとり、染めて布を仕立てるまでの全工程を手仕事でおこなっていました。
この手間のかかる一連の作業を主題として、大切な人を想う心を写し重ねて舞踊化したところにこの演目の深い趣があります。
みどころ
演目は、「つなぎ節」と「清屋節」の二曲で構成されます。
前段「つなぎ節」の歌い出し”あたり苧やうみやい”で苧から糸を紡ぐまでの作業を両手とこまやかな指先の動きであらわし、”二十読布織やり”の一節では、上から下へ繰り返しおろす手の振りに布織りの作業を写実的に表現します。
続く、”玉黄金里が”の一節で愛しい人を思う心情を《抱き手※1》の技法をもってあらわし、一途に作業する姿を描いた美しい手踊りは多くの人に共感を与えます。
後段「清屋節」の”里が蜻蛉羽”の一節で薄くて上質な着物を軽やかな振りで表現し、”御衣よすらね”の一節では《袖とり※2》をして、深い愛情で包み込むように踊りを納めていきます。
他の古典舞踊(女踊り)と比べると演目時間は短いですが、一連の手踊りが全体を美しく仕上げ、限られた時間の中にも琉球舞踊の魅力が凝縮された演目になります。
《抱き手※1》
両手を広げて包み込み、赤子を抱いているような動きをとる技法。
《袖とり※2》
袖を両手ですくあいげる技法。
女七踊りの一説
「本貫花」にかわって「苧引」は女七踊りの一つという諸説があります。
苧引の復活
戦後、久しく途絶えていた「苧引」を柳清会の比嘉清子師が、1967年(昭和42年)に復活上演し、改めて注目されるようになりました。
※略歴
■比嘉清子(1915-1993)
沖縄県那覇市泉崎に生まれる。
柳清会家元
県指定無形文化財「沖縄伝統舞踊」保持者
琉球舞踊「柳」、「苧引」を復活させ、後進の育成、指導に励む。
※流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。
補足
「苧引」の表現について、他
愛しい人へ上質な着物を織って差し上げたいという歌意は、古典舞踊(女踊り)の「綛掛」と同じ意味合いですが、二つの演目の表現方法には大きな違いがあります。
「綛掛」は小道具の綛と枠を持って、繰り返しおこなう作業に愛する人を想う一途さを表現しているのに対して、「苧引」は両手のこまやかな手踊りで、手間ひまかけて作り出す一連の作業に愛する人への情愛を写し重ねて表現していきます。
八重山にも「苧引」という同じ名前(発音が違う)の演目があります。
「たらくじ節」、「くしとうばる節」の二曲で構成されており、”霊威高さ姉妹”の歌い持ちにあるように、女性が大切な人へ旅立ちの祈りをこめて手ぬぐいを贈る内容で描かれています。
また、小浜島では琉球王府に納める布を織る内容として伝承され、アッカイ(杓子)とフドーシ(糸を巻く竹管)を手に持ち、肩にたらした苧を手に取り演じていきます。
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参考文献:一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において、参考にした全ての文献をご紹介します。 1.『定本 琉球国由来記』 著者:外間 守善、波 ...
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