天川節(前段):歌詞
天川の池に 遊ぶ鴛鴦の
思ひ羽の契り 与所や知らぬ
訳
天川の池にいる仲睦まじいおしどりのように、
わたしたちが深く思いあい、契りを交わしたことをまだ誰も知りません。
天川の池
場所は、読谷村 比謝川の下流にある説(琉球大学:山田 有功氏、音楽学者:山内 盛彬氏、琉球芸能研究家:与那覇 政牛氏)と奄美大島に由来している説(言語学者:奥里 将健氏)があります。
現在のところ、天川坂と呼ばれる石畳の坂道が戦前の嘉手納警察署の東側(嘉手納から比謝矼へ通ずる)にあったことから読谷村の説が有力のようです。
仲順節(後段):歌詞
別れても互に 御縁あてからや
糸に貫く花の 切りて離きゆめ
訳
別れることがあってもご縁があるからには、
糸で通した花のように、二人が離れ離れになることはないでしょう。
「天川」:解説
あらまし
男女二人の結びつきを、天川(池)で仲睦まじく泳いでいるおしどりに映し重ね、鷹揚と慈愛のある巧みな振りと面づかいであらわしていきます。
前半は互いに結びあった縁を通して慕いあい、後半は別れを連想した言葉に男女の情愛の深さを表現する内容で構成されています。
みどころ
演目は、「天川節」、「仲順節」の二曲で構成されます。
前段「天川節」の前奏にあわせて《角切り※1》で歩み基本立ちになると、”天川の池に”の歌い出しで着物のすそを両手であげて水場にいる状態を描き、続く”ヒヤ テント テント”の囃子では、《こねり※1》を入れながら交互に片足を出してオシドリの姿を写実的に表現していきます。
”遊ぶ鴛鴦の”の一節に続く”ヒヤ テント テント”の囃子も見所の一つで、上体を《なより※2》、前へ歩みながら足で調子をとって演目を色付けしていきます。
”思ひ羽の契り”の一節では、膝をつき両手を右左にはらう所作や、《指組※2》の手の振りに互いに結びあった縁を慕いあいます。
後段「仲順節」の”糸に貫く花の”の一節で、胸に両手を交差させて契りを交わす所作は観る者の心を奪います。
つづく、”クリンデヨウ ウミサトヨ”の囃子では、右手をあげて上手先を振り返り、しとやかに愛の余情を残しながら踊りを納めていきます。
《こねり※1》
手首をやわらかく、手のひらをこねるようにした動き。
《指組※2》
両手の指を重ね合わせて組む手踊りの技法。
※流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。
補足
房指輪
「天川」は、かすかに聞こえる房指輪(※3)の音色が演目の余韻を残し一段と深い味わいを感じさせてくれます。(舞台前方で観覧)
房指輪(※3)
琉球王朝時代より婚礼指輪として身に着けられ、また琉球舞踊の装飾品としても使われてきました。
金細工、銀平打の指輪には「7つの縁起」が託されています。
・蝶型:天からのご加護がありますように
・桃型:健康で明るい日々が送れますように
・葉型:着る物に困らないように
・福花型:生活に彩りがあらわれますように
・扇型:福が広がりますように
・ざくろ型:子宝に恵まれますように
・魚型:食べ物に困りませんように
編集後記
天の川(ティンガーラ)
無数の星空の中でも、天の川は古くから神秘的なものとして世界各国でさまざまな伝説が残されてきました。
日本では「七夕の織姫と彦星」、ギリシャでは「ミルキーウェイ神話」、アメリカ先住民は「魂の道」として語り継がれています。
天空をみつめると光の川のようにみえますが、実際には幅が10万光年、2000億個以上の星が集まり、壮大なカンパスに描き出されたロマンのかたまりです。
慈(いつく)しみ合っているもの同士が別れていくほど悲しくて切ないものはありません。
しかし、二人が寄り添い幸せを求めあった旅路が、すでに本当の幸せを成していて、かけがえのない時間であったのかもしれません。
日々の生活に追われているとき、人は大切なものを見失ってしまうようです。
本当は気づいていないだけで、この世界は、24時間365日奇跡で溢れているはずです。
古い書を片手に、各々の所感と照らし合わせ、琉歌を読み解いていくことは古典芸能を嗜む一つの味わいといえるでしょう。
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参考文献:一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において、参考にした全ての文献をご紹介します。 1.『定本 琉球国由来記』 著者:外間 守善、波 ...
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