特牛節:歌詞
御慈悲ある故ど 御万人のまぎり
上下も揃て 仰ぎ拝む
訳
御慈悲ある御代であるが故に、すべての人々が区別なく
上下揃って仰ぎ拝むことができます。
「女特牛節」:演目解説
あらまし
「女特牛節」は、琉球王国の国劇である組踊(※1)「大川摘討」の作中にある「糺しの場」において、大きな按司団扇(軍配)をもって踊る一場面を琉球舞踊として出入りを整え独立させた演目になります。
組踊では、敵の言動を巧みにかわしながら女性の品性と色香を使い、上手先に座している悪按司の谷茶の前で、気を引き寄せて演じられる踊りですが、琉球舞踊の演目はおめでたい賛美歌の内容にあわせて晴れやかな思いを表現する祝儀舞踊となっています。
組踊「大川摘討」
人望のあった大川の按司(※2)が谷茶の按司に滅ぼされてしまい、自陣のお城を奪われ捕虜になった若按司を救出し主君の敵を討つために、忠臣であった村原之比屋と妻の乙樽が囮になって敵陣に乗り込み戦いに挑む内容となっています。
糺しの場
谷茶の按司の愚かさと乙樽のしたたかさが徐々に浮き彫りになっていく様子が展開されていくストーリーになっています。
囮になって尋問を受ける乙樽と、対する敵方の心理的かけひきが絶妙な間で繰り広げられ、場の最後にひと差し舞う「女特牛節」をもって見事に谷茶の按司の心をつかむことに成功します。
※「糺しの場」の語源は、”真偽や事実を問い調べる場”という意味から、本文では”尋問”と示しました。
組踊(※1)
琉球王国時代の1718年に踊奉行(式典の際に舞台を指揮、指導する役職)の任命を受けた玉城朝薫師により創始された歌舞劇です。
台詞、舞踊、音楽の三つの要素から構成された古典芸能で、1972年に国の重要無形文化財に指定され、2010年には世界のユネスコ無形文化遺産に登録されました。
大川按司(※2)
按司は国王の親族に位置する特権階級で、各地域を領地として与えられていました。
自陣の領地の名をとって家名にする習わしであったことから、「大川按司」と呼ばれています。
また、「大川」の名は現在の沖縄県うるま市に流れる「天願川」のことを指しているのではないかと推測します。
「天願川」は河川延長 13.3 ㎞・流域面積 30.96 平方㎞・最大幅員 49mでうるま市山城に源を発し、金武湾に注ぐ2級河川で別名「大川」と呼ばれています。
川はお城を守る濠の役割を果たしていたため、「天願川(大川)」沿いに点在していたお城のいずれかがが「大川摘討」のモデルになったのではないかと考察します。
ただし、確証性のある資料がみつからないため推測の域を越えません。
みどころ
組踊の一場面を抜粋した演目であることから、他の古典舞踊女踊りでみられる「出羽、中踊り、入羽」の部立てがなく「特牛節」の一曲で演目が構成されます。
大きな按司団扇(軍配)を手に持ち、「特牛節」の前奏にあわせて舞台下手奥から上手奥へ向かって直線を歩み、”御慈悲ある故ど”の歌い出しより、団扇を品よくあつかいながら踊りはじめます。
”御万人のまぎり”の一節で、大衆を見渡すように団扇を左右に仰ぎ、次に”上下も揃て”の一節では、斜め上下に大きく仰いで思い晴れやかに描いていきます。
演目終盤の囃子では団扇を持った手の動きともう片方の手の動きがあわさり、一連の美しい振りもって踊りを納めていきます。
出羽/中踊り/入羽
出羽は踊り手が登場する出の踊り。中踊りは舞台中央奥で立ち直りをしたあとの本踊りを指し、入羽は舞台下手奥に戻っていく納めの踊りのことを指します。
琉球古典舞踊の基本構成は、この三部のつながりで成り立っています。
※流派によっては、演目構成や所作が異なる場合があります。
補足
「女特牛節」の創作背景
「女特牛節」が、組踊から独立して演じられた経緯について真境名由康師(※4)の談によると、「大正6、7年頃の首里町端にあった中山演技場でおこなわれた「久志の若按司」の公演の際、女踊りを得意としていた屋我良勝師の出番がなかったことに対して、出演を待ち望んでいた熱心なファンからの要望があり、それに応える形で急遽、屋我良勝師が「大川摘討」の乙樽の踊りを演じられたことが一つのきっかけである」との説があります。
他諸説あり
「女特牛節」の原型となる踊りは、「大川摘討」がつくられる以前から存在していたのではないかとの説もあります。(以下省略)
(参照 :『 組踊の作者は正しく伝えられたか』)
※略歴
■真境名由康(1889-1982)
沖縄県那覇市に生まれる。
琉球芸能役者、舞踊家、眞境名本流眞薫会初代家元、国指定重要無形文化財「組踊」保持者。
戦後の沖縄伝統芸能の復興、継承発展に大きく寄与し、珊瑚座の結成をはじめ、往年に渡り活躍される。
代表する作品に、創作舞踊の「渡ん地舟(ワタンジャー)」、「糸満乙女」、「初春」、組踊の「金武寺の虎千代」、「人盗人」、「雪払い」、歌劇の「伊江島ハンドー小」がある。
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参考文献:一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において、参考にした全ての文献をご紹介します。 1.『定本 琉球国由来記』 著者:外間 守善、波 ...
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