「久志の若按司道行口説」 - 古典舞踊／二才踊り

大主うふぬし、砂田すぃなだ、手配てくばりのように、

美里から越来、具志川、与那城、勝連に（順次）忍びゆくぞ。

この事（道中）は少しの油断も出来ません。

ご指示の通り、いざお供ともいたします。

1.

命がけの出で立たち（外出する時の身なり）に、以前と姿を変えて編笠あみがさを深くかぶり顔を隠して、

2.

久志くしの山路やまみちをかき分けて行けば程なくして金武の寺（金武観音寺きんかんのんじ）に着き、お宮（金武宮きんぐう）に立ち寄り拝おがんで、

3.

南無なむの経文きょうもん（お経）を唱となえ、観音大菩薩の慈悲じひの御利益ごりやくを受け、千代松（天願の若按司わかあじ）に早く会わせてくださいと祈る。

4.

心に念じ礼拝れいはいして、いざと立ち出でて、伊芸、屋嘉を通り過ぎ、

5.

歩み進むことが難しい七日浜なんかばま、石川の急流を渡って今、美里の伊波村に急ぎ急いで忍び着いた。

美里の伊波村に到着しました。

いざ、全ての宿を残らず人目につかぬよう（探し出そう）。

承知しょうちしました。

「久志の若按司道行口説くしぬわかあじみちゆきくどぅち」は琉球王国の国劇である組踊くみうどぅい（※1）「久志の若按司くしぬわかあじ」の作中にある一場面を独立させて舞踊化した演目になります。

三人一組で演じる舞台構成をとり、舞手まいてが台詞せりふを述べる「唱となえ」は組踊くみうどぅいの様式を受うけ継ついだ演出表現になります。

編笠あみがさをかぶり腰に大刀たち、手には杖串ちーぐし（※2）を持って三人の心情しんじょうを各々おのおのの所作しょさにあらわしながら道中どうちゅうの風景に映し重ねて演じます。

配下はいかであった謝名大主じゃなうふぬしの騙だまし討うちに遇あい、殺害された天願按司てぃんぐゎんあじ。

残された千代松（若按司わかあじ（息子））と妹の乙鶴は、難なんを逃のがれるため従兄弟いとこにあたる久志の若按司くしぬわかあじを頼りに助けを求めに向かう道中どうちゅう、謝名大主じゃなうふぬしの臣下しんかである富盛大主とぅむいうふぬしの一味いちみに捕つかまってしまいます。

このことを知った久志の若按司くしぬわかあじは配下はいかの立川の大主たちかわぬうふぬしと砂田の子すぃなだぬしと共に、二人が捕つかまっている居場所を探し出し、とうとう救出することに成功します。

その後、久志の若按司くしぬわかあじは捕とらえた富盛大主とぅむいうふぬしに偽いつわりの情報を伝え、敵方てきかた同士を仲違なかたがいさせる作戦に出ます。

ついには、罠わなとは知らずに久志城へ攻め込んできた謝名大主じゃなうふぬしを待ち構えて、見事に天願按司てぃんぐゎんあじの仇かたきを討うちとる内容の物語となっています。

演目は器楽曲きがくきょく「渡りざうわたりぞう」、「瀧落菅撹たちをぅとぅしすぃがかつぃ」、舞手による「唱えとな（台詞せりふ）」、「道行口説みちゆきくどぅち」で構成されます。

器楽曲きがくきょく「渡りざうわたりぞう」の演奏より、編笠あみがさをかぶって腰に大刀たちを指し、手には杖串ちーぐしを持って三人が登場します。

各々の唱となえ（台詞せりふ）は役柄により吟声ぎんせい（発声）に特徴を持たせ、所作しょさを交まじえながら展開し、台詞せりふを唱となえ終わると間髪かんぱつ入いれずに道行みちゆきの場面に移る1コマはこの演目の一つの見所です。

「道行口説みちゆきくどぅち」では手に持つ杖串ちーぐしに気迫を込め、二才踊りにーせいうどぅいの力強さをもって三人が一連の振りを合わせながら道行みちゆきの情景じょうけいを描いていきます。

1番”深く面をふかくうむてぃをぅ　隠してぞかくすぃてぃず”の一節で、面を下に落として人目に立たぬ様子をあらわし、長い旅立ちの決意を滲にじませます。

2番”お宮立ち寄りうみやたちゆい　伏し拝みふしをぅがみ”では、膝ひざをつき両手を広げて拝おがむ所作しょさに任務の成功を祈り、つづく3番”急ぎ引合はせいすぢふぃちゃわし　賜れてりたぼりてい”の一節も同じように拝おがむ所作しょさを組み入れ、捕とらわれの身になっている千代松と乙鶴の無事を願います。

4番”いざやいざやといざやいざやとぅ　立ち出でてたちいんぢてぃ”の一節では、杖串ちーぐしを前に鋭くかざして前進する動きに、救出へ向かう道中どうちゅうの早はやる胸の内をあらわします。

5番”歩みかねたるあゆみかにたる　七日浜なんかばま”では、足を交互に高く上げて歩む動きに、難所なんしょである七日浜なんかばまの情景を写実的しゃじつてきに表現します。

その後、目的地に到着した三人がいよいよ救出に向かう一場面を台詞せりふで唱となえ、演目の最後に器楽曲きがくきょく「瀧落菅撹たちをぅとぅしすぃがかつぃ」の演奏で、三者三様さんしゃさんようの所作しょさを取り入れ、舞台四方しほうに形を変えながら緩急かんきゅうをつけ、まとまりよく踊りを納めていきます。