工工四
歌詞
北谷真牛ぎやねが 歌声うちだせば
なかべとぶ鳥も よどで聞きゆさ
訳
北谷真牛が歌声を発すれば、
空飛ぶ鳥も止まって聞くだろう。
北谷真牛ぎやね
- 美しい声とその美貌で名を馳せた女流歌人。
- 王族の妃
ぎやね
- 金 = 身分に応じて付けられる名前の敬称。王族の場合は名前の上下に”真”と”金”の字を付け加え「真牛金」と敬称する。したがって、本来の名前は「牛」となる。なお、親しい間柄であれば敬称を省略して呼んでいたりもした。
うちだせば
- (歌声を)出せば
- (歌声を)発すれば
なかべ
- 空の中ほど
- 中空
よどで
- 止まって
- (羽を)休めて
解説
「百名節」はかつて伊野波村(現在の国頭郡本部町伊野波)に暮らしていた北谷真牛金の美しい歌声を賛美して詠まれた歌曲です。
一説によると、北山王国(琉球王国統一前の時代)の攀安知王(在位:?~1416年)が伊野波村を巡察した際、北谷真牛の美しい声とその美貌に惚れ込み、今帰仁城の妃として迎え入れたと云われています。
しかし当時、北谷真牛金には予てよりお付き合いしていた恋人がおり、この時の複雑な女の切情を詠み込んだ琉歌が伊野波村に伝わる古謡で歌われています。(※補足参照)
最古の琉歌集である『琉歌百控』(※1)には「百名節」の原歌が収められており、玉城間切百名村(現・南城市玉城百名)の出自が記されていることから、「百名節」は地名から命名されていることが確認できます。
替え歌
旋律が借用され、原歌と替え歌の関係が派生したのは最古の歌謡が集録されている「おもろ」の時代からであり、今日に至るまで一つの伝統形式として成り立っています。
『おもろさうし』 は12世紀から17世紀にかけて島々で詠われていた歌謡を採録し、1531年から1623年にかけて編纂された最古の歌謡集です。
「おもろ」の語源は 「思い」 を意味します。
『琉歌百控』(※1)
上編「乾柔節流」、中編「独節流」、下編「覧節流」の三部(全601首)からなり、1795年~1802年にかけて編纂された最も古い琉歌集です。
補足
伊野波村に伝わる臼太鼓(※2)の古謡には、本歌詞に対する返事の歌(返歌)が代々歌われてきました。
国王の妃として召される身になった北谷真牛金が、それまでお付き合いしていた恋人に対する心遣いを感じとれる歌曲になっています。
臼太鼓(※2)
村集落の豊穣や繁栄を祈願して納める奉納舞踊。
婦人たちで円陣をつくり直径30cmほどの小鼓にあわせて歌いながら踊ります。年長者の神人が先頭で音頭をとり、村集落の女性たちが年齢順につづきます。歌唱曲の一つとして本曲が継承されてきました。
百名節(作:北谷真牛金)
なかべ飛ぶ鳥や 聞きやらはもよたしや
かくれ思里が 聞かはきやしゆが
訳
空飛ぶ鳥は(歌声を)聞いても構わないが、
彼が(歌声を)聞いてしまったらどうしようか。
古典舞踊
古典舞踊のカテゴリーでは「百名節」が舞踊曲として演奏される「綛掛(かせかけ)」について解説しています。
「かせかけ」 - 古典舞踊/女踊り
干瀬節:歌詞 七読と二十読ななゆみとぅはてん 綛かけておきゆてかすぃかきてぃうちゅてぃ 里が蜻蛉羽さとぅがあけずぃば 御衣よすらぬんしゅゆすぃらに 訳 七読ななゆみと二十読 ...
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参考文献一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において参考にさせて頂いた全ての文献をご紹介します。 尚、引用した文章、一部特有の歴史的見解に関しては各解説ページの文末に該 ...
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