工工四
歌詞
1.
雲霧も 嵐に消えて 長月や
名立たる月の 影冴か
いづれも押しつれ 立ち出でて
月見に 酒盛 さても面白
チンチルレンサ
照りよ渡ゆる 月影や さて見事
2.
桜花 梅の匂に 誘はれて
老も若きも 諸共に
立ち出て 山々 川の辺に
花見て 日暮し さても嬉しや
チンチルレンサ
花の色々 露うけて さて見事
訳
1.
雲や霧も嵐に消えて九月(旧暦)は
名高い名月が凛として澄み渡る。
皆で一緒に出掛けて
月見に酒を酌み交わし、なんとまあ楽しい。
チンチルリンサ
照り渡る月の姿は実に見事である。
2.
桜の花や梅の香りに誘われて、
老いも若きも一緒に連れだって
山々や川のほとりで
花見を一日じゅう観賞できるなんてなんとまあ嬉しい。
チンチルリンサ
種々の花が露を受けて実に見事である。
長月
- 旧暦の九月(夜が長い月に由来する)
影冴
- 寒気の空に凛と澄み渡るイメージ
いづれ
- みんな
- どれも
さても
- なんとまあ(感動詞)
面白
- 楽しい
- 素晴らしい
- 趣のある
諸共
- 一緒に
- 皆
日暮し
- 一日中
- 朝から晩まで
解説
「大願口説」は組踊(※1)「花売の縁」の演奏曲として構成されている歌曲で、旅の途中に出会う猿引(猿まわし)の踊りに乗せて演奏されます。
舞台上では猿に扮した子供が合戦時に指揮を執る際に使用した麾を手に持ち、リズミカルな節まわしの「大願口説」にあわせて軽快に踊ります。
口説形式の歌はかつて日本本土より伝わった節まわしで、歌詞に登場する”チンチルレンサ”は秋に生息するマツムシの鳴き声をあらわす大和言葉の擬声語であると考えます。
しかし、「大願口説」は秋と春の季節を歌った歌詞で構成されており、どちらの歌詞についても”チンチルレンサ”が用いられていることから、この語句の由来については今後さらなる研究が必要であると考えています。
組踊(※1)
琉球王国時代の1719年に踊奉行(式典の際に舞台を指揮、指導する役職)の任命を受けた玉城朝薫により創始された歌舞劇です。
台詞、舞踊、音楽の三つの要素から構成された古典芸能で、1972年に国の重要無形文化財に指定され、2010年には世界のユネスコ無形文化遺産に登録されました。
「花売の縁」
首里の下級武士である森川の子はここ数年いろいろと不仕合せなことが重なり、親子三人で暮らすことがとうとう困難な状態に陥りました。
夫婦で話し合った結果、森川の子は遠く山原の村へ働き口を探しに行き、妻の乙樽は身分の高い家の乳母として奉公に出向いて、どちらかの暮らしが良くなったらまた家族で暮らす約束をして別れました。
それから十二年という長い年月が過ぎ去り、ようやく妻子の生活にもゆとりが見えはじめると、妻の乙樽は兼ねてからの約束を果たすために子供の鶴松を連れて音信不通であった夫を探しに旅に出ます。
旅の道中で出会う猿引の芸に心を和ませたり、蒔取りの老人から夫の消息を聞き付け、今も心意気を失わずに暮らしている様子を伺いながら旅を続けます。
人の往来が絶えない賑やかな大宜味村の塩谷田港に到着し、夫の居場所を探していると目の前に花売の男が現われます。
乙樽には感じるものがあり、梅の花を買い求めたその時、花売は自分の妻と子供だと気付きます。
森川の子は自身の落ちぶれた姿を恥じて身を隠しますが、乙樽の説得に心を開いて、家族の再会を歓び、共に首里へ戻るのでした。
補足
本歌
「大願口説」の本歌とされる歌詞は、秋の時期に豊作を祈願する内容(十五夜)の歌詞で歌われています。
大願口説(裵氏工工四所載)
大願 したてまつるは 権現に
又も観音 大菩薩
おみやに立寄り 伏拝で
火の神御前 さても嬉しや
チンチルレンサ
御願人数 お支度や さて見事
参考文献一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において参考にさせて頂いた全ての文献をご紹介します。 尚、引用した文章、一部特有の歴史的見解に関しては各解説ページの文末に該 ...
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