工工四
歌詞
隣の耳切れ鼻切れ ごね引き猫が
目はげ首白鼠に 荒頸くはれて
叫らせおらばせ飛のがせ
思入りや 里一人だう
里が物言ひくらしやや 何に譬るが
ほだのぢやげなや
訳
隣の耳が切れて鼻が欠けて、びっこを引いた猫が、
目のただれた首もとの白い鼠に不格好な首筋を噛まれて、
叫ぶことも大声をあげることも飛び上がることもできない(このような寓話を聞いても)、
考え込んでいるのは貴方一人だけだよ。
貴方の話しぶりがうしろ暗いのは何に譬えられようか、
危うく騙されるところだった。
頸
- 首もと
里
- 「里」は女性が思いを寄せる男性に対して使う言葉。男性が思いを寄せる女性に対して使うときは「無蔵」と呼ぶ。
くらしや
- 暗そうに
※史料によっては「美らしや」とする解釈もある。
ほだのぢやげなや
- 危うく騙されるところだった
解説
「おほんしやれ節」は擬人化した動物を主人公に仕立て、風刺的な要素を織り込んで詠まれた歌曲です。
本曲の原歌である古謡の前半部には省略された歌詞があり、「浮気を聞きつけた妻が夫を問い詰める」という内容のストーリーで展開されます。参考:『伊波普猷全集・第九巻』
後ろめたさに暗くしている夫の姿に対して、鼠に噛まれてもおとなしくしている猫の様子に揶揄して表現しているのでしょう。
現今の「おほんしやれ節」は古謡の一部の歌詞を独立した形で演奏されていますが、こうして歌詞をつなげてみると物語の全容がみえてきます。
補足
節名の由来
「おほんしやれ節」は別名「大阿母志良礼節」と呼ばれており、琉球王国時代に国を守護する役割を担った上級女神官の名前に由来していると云われていますが、歌詞との関連性については明らかになっていません。
また、一説によると、組踊「萬歳敵討」の異本には「おほんちゃけ節」の節名で出自が島尻大里間切大見武(現在の島尻郡与那原町)と記されており、この村で起きた事件を巡業中の万歳芸人が創作の材料にして伝播させたのではないかと云われています。参考(引用):『沖縄三線 節歌の読み方/大城 米雄』
その他、最古の三線楽譜である『屋嘉比工工四』(※1)には「オホンシヤレブシ」の節名で収められており、同じ内容の歌詞で詠われています。
屋嘉比工工四(※1)
琉球音楽家の屋嘉比朝寄(1716-1775)によって編み出された記譜法により創案された現存する最も古い三線楽譜です。(117曲編纂)
組踊
「おほんしやれ節」は組踊(※2)「万歳摘討」の演奏曲として構成されています。
組踊(※2)
琉球王国時代の1719年に踊奉行(式典の際に舞台を指揮、指導する役職)の任命を受けた玉城朝薫により創始された歌舞劇です。
台詞、舞踊、音楽の三つの要素から構成された古典芸能で、1972年に国の重要無形文化財に指定され、2010年には世界のユネスコ無形文化遺産に登録されました。
古典舞踊
古典舞踊のカテゴリーでは「おほんしやれ節」が舞踊曲として演奏される古典演目「高平良万歳」について解説しています。
「高平良万歳」 - 古典舞踊/二才踊り
萬歳口説:歌詞 1. 親の仇をうやぬかたちをぅ 討たんてやりうたんてい 万歳姿にまんざいすぃがたに 打ちやつれうちやつぃり 棒と杖とにぼうとぅつぃとぅに 太刀仕込でたちしくでぃ 2. 編 ...
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参考文献一覧
書籍/写真/記録資料/データベース 当サイト「沖縄伝統芸能の魂 - マブイ」において参考にさせて頂いた全ての文献をご紹介します。 尚、引用した文章、一部特有の歴史的見解に関しては各解説ページの文末に該 ...
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