古典音楽

「池当節」- 古典音楽

工工四

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歌詞

 

春や野も山もはるやぬんやまん 百合の花盛りゆゐぬはなざかゐ

ゆきすゆる袖のゆちすぃゆるすでぃぬ 匂のしほらしやにうぃぬしゅらしゃ

 

春は野も山も百合の花が咲きそろい、

行き交う人の袖からは香りが漂っている。

花盛りはなざかゐ

  • 花が咲きそろう
  • 花が咲き誇る

にうぃ

  • 香り
  • 匂い

 

解説

池当節いちんとうぶし」は組踊くみうどぅい(※1)「手水の縁てぃみずぃぬゐん」の演奏曲として構成されている歌曲で主人公である山戸やまとぅの登場シーンで演奏されます。

辺り一面に咲く百合の花がほのかに香り漂う春のゆかしさを描いています。

本曲は沖永良部島おきのえらぶじまが発祥の地で春先になると島に自生するテッポウユリ(えらぶゆり)が見頃となり各地では美しい純白の花々が広がりをみせます。

 

組踊くみうどぅい(※1)

琉球王国時代の1719年に踊奉行おどりぶぎょう(式典の際に舞台を指揮、指導する役職)の任命を受けた玉城朝薫たまぐすくちょうくんにより創始された歌舞劇かぶげきです。

台詞せりふ、舞踊、音楽の三つの要素から構成された古典芸能で、1972年に国の重要無形文化財に指定され、2010年には世界のユネスコ無形文化遺産に登録されました。

 

百合の花(テッポウユリ)

百合の花

 

「手水の縁」

花見からの帰り道に山戸やまとぅは波平玉川で髪を洗っていた美しい玉津たまつぃと出会い心惹かれます。

山戸やまとぅ玉津たまつぃの手水(愛の誓い)が欲しいと申し出ます。戸惑っていた玉津たまつぃも次第に真剣な彼の姿に惹かれるようになります。

しかし当時の社会では二人の行為はご法度(密通の罪)であり、とうとう玉津たまつぃは知念の浜で処刑されることになります。

そのことを聞きつけた山戸やまとぅは急いで浜に駆けつけ、命がけで彼女を助けようと役人に乞い願います。

最後は山戸やまとぅの心情にほだされた役人たちが二人を逃がすことにし、見事に恋が成就する物語です。

 

略歴

平敷屋朝敏へしきやちょうびん(1700-1734)
沖縄県那覇市首里金城村に生まれる。(首里士族の家系)
和文学者、和文物語作者
作品には組踊くみうどぅいの「手水の縁てぃみじぬいん」をはじめ、「若草物語わかくさものがたり」、「苔の下こけのした」、「萬歳まんざい」、「貧家記ひんかき」、他に和歌や琉歌を残す。

 

補足

 

節名の由来

最古の琉歌集である『琉歌百控りゅうかひゃっこう』(※2)には「池当節いちんとうぶし」が収められており、沖永良部嶋(現・鹿児島県大島郡知名町かごしまけんおおしまぐんちなちょう和泊町わどまりちょう)の出自が記されています。

節名の由来には諸説ありますが、”池当いちんとう” = 池の周辺・地帯を指しており、沖永良部島おきのえらぶじま和泊町出花わどまりちょうでぎ集落では古くより「池当節いちんとうぶし」が歌われています。

 

琉歌百控りゅうかひゃっこう』(※2)

上編「乾柔節流けんじゅうせつりゅう」、中編「独節流どくせつりゅう」、下編「覧節流らんせつりゅう」の三部(全601首)からなり、1795年~1802年にかけて編纂へんさんされた最も古い琉歌集です。

 

池当節いちんとうぶし

永良部思なやにいらぶうみなやに 送ん酌されてうくんじゃくさりてぃ

赤さ親泊あかさうぇえどぅまい 日や昼間てぃだやひるま

 

永良部島の娘たちに送酌されて、

赤い顔をしている親泊(男性の名前)は、太陽に照らされた真昼のようだ。

思なやうみなや

  • 思姉うみなゐ卑語ひご - 参照:『標音・評釈琉歌全集/武蔵野書院版』
  • 娘たち - 参照:『標音・評釈琉歌全集/武蔵野書院版』

送ん酌うくんじゃく

  • 送別のとき途中まで見送りながら酒のしゃくをして飲ますこと。 - 参照:『標音・評釈琉歌全集/武蔵野書院版』

 

沖永良部島(空撮)

沖永良部島(空撮)

 


 

参考文献(沖縄の本)のイメージ画像
参考文献一覧

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